前田健太がつないだ逆転優勝への望み 誰もが納得するMLB移籍はその後に

ベースボール・タイムズ

後半戦はエースにふさわしい投球

8年ぶりに復帰した黒田(写真右)の存在はメジャー移籍を希望する前田にとって“生きた教科書”となっている 【写真は共同】

 その傾向が顕著に現れているのが、上位チーム相手の成績だ。対戦防御率は、阪神戦の0.41を筆頭に、巨人戦が1.38、ヤクルト戦も1.64と、ほぼ完璧と言える数字を残している。ただ、ここでも3勝0敗(3試合)の阪神戦はともかく、巨人戦は7試合で3勝3敗、ヤクルト戦は3試合で1勝1敗と、防御率に見合った成績は残っていない。特に巨人戦では、菅野智之との対戦が4度あり、最初の対決こそ7回無失点(4月9日、マツダ)で勝ち投手になっているが、その後は7回1失点(4月22日、宇都宮)、8回2失点(5月12日、東京ドーム)、9回2失点(7月24日、マツダ)と好投しながら、いずれも負け投手となっている。

 この状況にも、前田は「序盤に5、6点取ってもらう試合もあるし、終盤まで0点の時もある。それが野球だと思っているので、あまり気にしない。それで気持ちが切れるということもない」と、意に介していない。それどころか、「それが自分の中でも普通になっている部分もある。カープの野球は少ない点数でも、守り勝っていかないといけない。1点でももらえれば、その1点を守りきって勝てるピッチャーでありたい」と言い切る。

 さらに今季は、順位争いに直結する後半戦で、エースにふさわしい投球を見せている。「昨年はこの時期に勝てなかったが、今年は苦しいところで勝てている」と言うように、8月以降は7試合に登板して負けなしの5勝を挙げ、そのうち阪神と巨人から4勝を挙げている。数字的には苦しいが、リーグ優勝の可能性がなかなか消えないのも、上位チームに強い、計算できるエースの存在があるからだ。

現実味を増す今オフのメジャー移籍

 昨オフに封印したメジャー移籍は、ここにきて現実味を増している。昨年あたりから、前田が登板する試合には、必ずと言っていいほどバックネット裏にはスカウトら、メジャー関係者の姿がある。今季も8月15日の横浜DeNA戦(マツダ)で、前田の獲得に興味を持っていると言われるダイヤモンドバックスの球団社長付補佐を務めるランディ・ジョンソン氏や、編成責任者であるトニー・ラルーサ氏らが姿を見せた。この試合で前田は勝ちこそ逃したが、7回1失点の好投を見せ、「どの球種でもストライクが取れる(ジョンソン氏)」、「身体能力が高い(ラルーサ氏)」と、高評価を受けた。

 近年はメジャー志向を隠さなくなった前田だが、「ポスティングは僕の権利ではなく球団の権利。僕の意思だけではどうにもならない」と、その胸中を語っている。全ては球団次第、と言うことになるが、もしこのまま、チームも本人も不本意な成績に終わってしまった場合、前田はいかなる決断をするのだろうか。

 シーズン中に今季の目標を聞いた時、前田は「これまでの最高が15勝(10年、13年)だったので、それ以上は勝ちたい」と答えた。現在13勝、残り試合を考えれば、登板全試合を勝つぐらいの結果が必要となる。逆に言えば、それが現実となれば、クライマックスシリーズ(CS)進出はもちろん、大逆転でのリーグ優勝の可能性もないとは言えない。

「優勝を経験したい。野球人生において、優勝を経験できずに終わったら、一生後悔すると思うので」

 以前、「引退するまでに、これだけはやっておきたいこと」を聞いた時、前田はそう答えた。その時のお祝いはビールなのか、それともシャンパンになるのか、という質問は笑ってはぐらかされたが、現在はまさに、その分岐点にあると言えるかもしれない。投手部門のタイトルを獲得し、24年ぶりのリーグ優勝を果たして、晴れてメジャー移籍。前田本人も、球団も、そしてファンも、文句無しに納得できる形は、それしかない。

(文:大久保泰伸/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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