前田健太がつないだ逆転優勝への望み 誰もが納得するMLB移籍はその後に
後半戦はエースにふさわしい投球
8年ぶりに復帰した黒田(写真右)の存在はメジャー移籍を希望する前田にとって“生きた教科書”となっている 【写真は共同】
この状況にも、前田は「序盤に5、6点取ってもらう試合もあるし、終盤まで0点の時もある。それが野球だと思っているので、あまり気にしない。それで気持ちが切れるということもない」と、意に介していない。それどころか、「それが自分の中でも普通になっている部分もある。カープの野球は少ない点数でも、守り勝っていかないといけない。1点でももらえれば、その1点を守りきって勝てるピッチャーでありたい」と言い切る。
さらに今季は、順位争いに直結する後半戦で、エースにふさわしい投球を見せている。「昨年はこの時期に勝てなかったが、今年は苦しいところで勝てている」と言うように、8月以降は7試合に登板して負けなしの5勝を挙げ、そのうち阪神と巨人から4勝を挙げている。数字的には苦しいが、リーグ優勝の可能性がなかなか消えないのも、上位チームに強い、計算できるエースの存在があるからだ。
現実味を増す今オフのメジャー移籍
近年はメジャー志向を隠さなくなった前田だが、「ポスティングは僕の権利ではなく球団の権利。僕の意思だけではどうにもならない」と、その胸中を語っている。全ては球団次第、と言うことになるが、もしこのまま、チームも本人も不本意な成績に終わってしまった場合、前田はいかなる決断をするのだろうか。
シーズン中に今季の目標を聞いた時、前田は「これまでの最高が15勝(10年、13年)だったので、それ以上は勝ちたい」と答えた。現在13勝、残り試合を考えれば、登板全試合を勝つぐらいの結果が必要となる。逆に言えば、それが現実となれば、クライマックスシリーズ(CS)進出はもちろん、大逆転でのリーグ優勝の可能性もないとは言えない。
「優勝を経験したい。野球人生において、優勝を経験できずに終わったら、一生後悔すると思うので」
以前、「引退するまでに、これだけはやっておきたいこと」を聞いた時、前田はそう答えた。その時のお祝いはビールなのか、それともシャンパンになるのか、という質問は笑ってはぐらかされたが、現在はまさに、その分岐点にあると言えるかもしれない。投手部門のタイトルを獲得し、24年ぶりのリーグ優勝を果たして、晴れてメジャー移籍。前田本人も、球団も、そしてファンも、文句無しに納得できる形は、それしかない。
(文:大久保泰伸/ベースボール・タイムズ)