自信を深めるエディージャパン ラグビーW杯直前リポート

斉藤健仁

ディフェンスには工夫も必要か

素早くタックルするSH田中。粘り強いディフェンスが光った 【斉藤健仁】

 もう一つ良かったことは、チーム全体としてディフェンスが機能していたことだろう。ラインブレイクされても、モールで押された後も、ゴール前で粘り、相手を1トライに抑えた。FLリーチ マイケル主将(東芝)とマイケル・ブロードハースト(リコー)がトップフォームに近づいていることも心強かった。

 ただ、日本代表のディフェンスシステムは前に詰めてから、ドリフトするため、どうしても相手の深いアタックラインに対しては大外までボールを展開されてしまう。今回の試合では本来はFL/No.8のツイ ヘンドリック(サントリー)を11番で起用したが、その効果は特別、見られなかった。中盤、特にCTBの選手が極端に上がって、大外までボールを展開させないなどの工夫も必要ではなかろうか(もちろん、敢えて隠しているのかもしれない)。

攻撃では「状況に対応しないと」

トライを取り切れないこともあるため、五郎丸のキックによる得点が重要になる 【斉藤健仁】

 この試合で、改めて浮き彫りになった課題は、ボールを展開してトライが取れなかったこと。特に、敵陣22mに入ってからの攻撃の精度だ。ラグビーは得点を競うスポーツである。当たり前だが、チャンスでどれだけ得点を取るかが勝敗を分ける。前半6分、相手のドロップアウトから実に20回、約3分間の攻撃を続けたが、ゴールラインには届かなかった。中盤でCTBマレ・サウ(ヤマハ発動機)のステップ、CTBクレイグ・ウイング(神戸製鋼)、No.8マフィの力強いランでゲインできても、やはり、ゴール前では簡単にはいかない。

 この試合、ジョージア代表はあまりラックに人数をかけず、早めに、広くディフェンスラインをセットすることに注力していたことも、日本代表がトライを取り切れなかった要因になった。前半途中から沢木啓介コーチングコーディネーターから「FW、ビンゴ、ビンゴ」という声が飛ぶ。「ビンゴ」とはピックアンドゴー(ラックからFWがボールを拾い、近いスペースを攻撃すること)を指す言葉。もっとラック周辺をFWで攻めて相手のDFをラックに集めたかったのだろう。ただ、相手のFWも個々が強かったこともあり、そう簡単にはいかなかった。

 試合後、選手たちから「取り切れなかった」ことが課題として挙げられ、リーチ主将、HO堀江、SH田中も「我慢が必要」と声をそろえた。自分たちのテンポで攻撃しているときは良いかもしれないが、特に、ボールが停滞したときの工夫は必要だろう。トライが取れなかったとしても、敵陣22mに入ったときには、PGやDGでもいいので得点を刻みたい。

「アタッキングラグビー」を掲げるジョーンズHCも、このことは百も承知で、「フェイズアタック(連続攻撃)はブラッシュアップしないといけない。シャープにアタックする、ラックから良い球出しをする、相手のディフェンスを判断する、レフリーの解釈などすべてです。我々の(アタックの)プランもありますが、状況に対応しないといけない」とキッパリと言った。

名将はどんなアレンジを加えるのか

試合後の会見で笑顔を見せるエディー・ジョーンズHC 【斉藤健仁】

 いずれにせよ収穫もあり、課題が出つつも、W杯前、最後の試合で勝利することができたことは、チームにとっては大きな弾みと自信になった。スクラム、ラインアウトのセットプレーとディフェンスはさらなるレベルアップを、そして、ボールを展開して何本かトライを取るために、選手の起用法も含めて、最後にどんなアレンジを加えるのか。指揮官とアドバイザーとしてW杯で13勝を挙げているジョーンズHCの手腕にも大いに期待したい。
 9月19日、W杯初戦まで、残された時間はあと2週間を切った。「エディー・ジャパン」の最終章がいよいよ始まる。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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