体操金メダル・森末さんが語る東京五輪
「子どもたちに競技を見てほしい」

チームの意識を作るための「ガキ大将」の存在

現在の体操日本男子は、キャプテンの内村航平(左)が中心となり、メンバー全員がチームのためにと試合に臨んでいる
現在の体操日本男子は、キャプテンの内村航平(左)が中心となり、メンバー全員がチームのためにと試合に臨んでいる【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

――話を一度、スポーツによる子どもの育成という話題に戻します。先ほどスポーツを始めるのは早い方がよいというお話がありましたが、多くの子どもは小学生時代の体育の授業がスタートになると思います。実際、この学校体育についてはどう思われますか?


 小学校に体育の専門教師ができたのが最近ですよね。昔は1人の先生が、全教科を教える中で、体育もやっていたと。それが最近では幼稚園でも体育の専門がいるようになりましたよね。それはよいことだと思います。


 ただ一番困るのは、体育を教えている人たちが、それこそ逆上がりができなかったりする場合です。そうなると難しいです。


 一時期、「ゆとり教育」が行われていた頃は、体育の種目を自由に選ぶことができるようになったことで、野球やサッカーはやるけど、それこそ鉄棒や跳び箱、マット運動といった器械体操をやらないところもありました。


 その頃、僕が学校で鉄棒を教えにいくと、先生が「30人のクラスで10人なんですよね」と話されていたので、「じゃあ、残り10人ができるように頑張りましょう」と応えると、「そうでなくて、逆上がりができる子が10人なんです」と! これには驚きましたよね。僕らの時代だと、クラスに40人いたら35人ぐらいは逆上がりができ、5人の子をみんなで助け合ってできるようになっていたと思います。ですが、現状はそれが逆転し、できる子の方が特殊になってしまうんです。


――昔に比べて、個々の運動能力の差が出てしまっている。


 結局それは、教えている人たちが鉄棒をできないということもあるんです。そうなると、子どもたちにスポーツを好きになってほしいと思っても、難しい。


 それでも学校でもっといろいろなスポーツに触れて、教えられるようになるといいですよね。そこが窓口になって、もっと競技を知りたいという人がクラブ活動をやっていく。それこそ、跳び箱が飛べるようになって、みんなに褒められ、そこから体操選手になりたいという希望が生まれますので。僕も周りから鉄棒が上手だねと言われて、調子に乗ってやり続けて、五輪まで進んだんですよ(笑)。


――やはり小さい頃の成功体験が、より専門的にやるきっかけになりますか?


 スポーツに興味を持たせるような体育の先生がいることが大事なのかなと思います。あとは親の影響もありますよね。自分たちがスポーツをやっていないと興味はわかないですし、最近は過保護になって、子どもに無茶なことをさせない親も多いので、スポーツに取り組むことが少なくなりました。


 特にゲームの影響は大きいですよね。昔は1人でゲームをしていたけど、最近はみんなでできますから。ですから、昔に比べ子どもたちが歩かなくなったんです。前に調べた時は、保育園に通う5歳児の子どもの平均が、87年の頃は1日1万2000歩、テレビゲームが発売された92年で8000歩、さらに携帯ゲームが発売されると5000歩まで下がり、07年には4000歩になってしまう。87年当時の3分の1になってしまっているようです。


――親としても、テレビゲームで遊んでくれるとけがもないですし、おとなしく遊んでくれますから楽なんでしょうか?


 そう考えると、昔よくいたガキ大将の存在は大きかったんでしょうね。町内の子どもを、小学4、5年生の子が、さらに小さな1、2年生を連れて遊びにいくと。そうやってみんなで遊ぶことができたんです。


 あと上下関係のない遊び方をしてしまうと、みんなが自分中心になってしまいます。大学で指導していたとき、「けがをしたので抜けます」というメンバーがいました。でも彼はチームの一員なので、彼が抜けたことで大きな負担がかかる。だから「けがをしたなりにできることをやりなさい。それでチームに貢献できるように演技しなさい」と話したこともありました。そのとき、回りのメンバーもその子をとがめることもないですし、だからよく怒りましたよ(笑)。


――チームのためという感覚が薄くなっている?


 やはり、小さい時にそういう遊び方をしてこなかったからなんでしょう。ガキ大将に付いていったり、大きくなったら小さい子をまとめたり、それが代々伝わってきたから、僕たちは普通にできていたんですね。


――今、各競技の日本代表を見ると、しっかりチームメートを引っ張れる選手がいる競技は強くなっている印象です。


 そうですね。体操も(内村)航平がチームで金メダルを取りたいという。そうすると、メンバーも一緒になって頑張る。みんなが責任感を持って、個人としてやらなければいけないことをこなし、チームのために失敗しちゃいけないと考えますからね。そういう部分で、他の人のことを考えられるようになることは大事だと思います。


――そのような環境の中で、アスリートを育てたい親としては、どのように子どもと接すればいいと思いますか?


 親としてできることは、環境を与えてあげる、体操をやりたければ体操教室に入れてあげる、水泳ならばスイミングスクールにと、それで十分だと思います。


――子どもの気持ちを汲んで、環境を整えてあげることだと?


 そうですね。またそういう教室に通わせたら、指導者に任せるということも必要です。あまり口出しをすると、トラブルにつながりますからね。ただ、強いて言うならば、子どもとたくさん話すことが重要でしょう。その中で、子どもが発する信号に気づいてあげる。それしかないですね。


 スポーツをすることで、人を思いやる心や、先輩後輩の関係を知ることなど、これは体育会に入らないと経験できないことですよね。こういう経験は実は、会社に入ってからも生きてきたりしますし、人格形成につながると思います。

五感に働きかけ、大きな感動に!

五輪を直に感じることで、大きな感動を得ることができる。そこから、未来のアスリートが生まれることもある
五輪を直に感じることで、大きな感動を得ることができる。そこから、未来のアスリートが生まれることもある【写真:ロイター/アフロ】

――最後になりますが、2020年東京五輪に向けて、子どもたちがどのようにスポーツと向き合っていくことが理想だと思いますか?


 まずは子どもたちに、実際に競技をしているところを見てほしいですね。5年後のテレビがどうなっているか分かりませんが、それでもやっぱり生で観戦してほしいです。


 テレビで見ていても面白いですが、それこそ世界陸上でウサイン・ボルトが世界記録を出した瞬間、その場面に出くわすということが、大きな感動につながると思います。


――五輪には、世界中からトップアスリートが集まるだけでなく、ファンや観客も集まってきます。世界の注目がそこに集まっているというのを感じることができますね。


 もちろん、五輪開催は8月で、日本はすごく暑いかと思いますけど、それでも子どもたちにとっては、五感に働き掛ける刺激がたくさんあると思います。目に入る会場の景色、回りから聞こえる世界中の言葉、スタジアムに流れる風の温度やにおいなど、多くのことを感じると思います。そういう経験をした子どもたちの中から、次の時代に活躍する選手が出てくるのだと思います。


 僕自身は小さな頃、国体の入場行進を見て感動しました。それで「あそこに出たい」と。その後、五輪というのを知って、五輪はどれぐらいすごいのかと母親に聞いたら、「世界の国体だよ」という話を聞いて、国体も出たいけど、それ以上に五輪に出たいという気持ちになりました。


 そういう意味でも、2020年に五輪が東京で見られるというのはいいことだと思います。


――そう考えると、20年東京五輪がひとつのゴールであり、次の世代の子どもにとっては、スタートにもなるということですね。


 そうですね。新しく施設もどんどん増えると思いますし、未来に向けて、いい環境が整っていくと思います。


(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)

森末慎二さんプロフィール

森末さんは現在、月額会員制オンラインコミュニティプラットフォーム「athlete club」で、運動が苦手なお子さんを持つ親御さんなどの質問に、親身になって相談に乗っている
森末さんは現在、月額会員制オンラインコミュニティプラットフォーム「athlete club」で、運動が苦手なお子さんを持つ親御さんなどの質問に、親身になって相談に乗っている【スポーツナビ】

 岡山県、私立関西高校で本格的に体操を始め、日本体育大学に進学。卒業後、紀陽銀行に入行。モスクワ五輪を目指すも選考会で失敗。ロサンゼルス五輪に夢を託し、1大会で金銀銅のメダルを獲得。

 1985年(昭和60年)、10月、全日本体操競技会を最後に引退。現在は、講演会やテレビ出演などタレントとして活躍中。また、トップアスリート・文化人による月額会員制オンラインコミュニティプラットフォーム「athlete club」で、運動が苦手なお子さんを持つ親御さんなどの質問に、親身に相談に乗っている。

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