前哨戦と五輪の連続メダルは難しい!? データから見る世界陸上&五輪の関係

小川勝
 陸上の世界選手権(中国・北京)が22日に開幕した。1983年のヘルシンキ大会(フィンランド)から始まり今回で15回目。第3回となった91年の東京大会以降、隔年で開催されることになり、五輪の前年に行われる大会は「前哨戦」とも位置づけされる。

 実際、その「前哨戦」と五輪との関係はどうなっているのか? 過去のメダリストを比較し、前哨戦と五輪の関係を探ってみた。

連続メダル獲得は4割を切る

 第1回となったヘルシンキ大会は83年の開催となるが、翌84年のロサンゼルス五輪は冷戦の影響により、東側諸国(ソ連、東ドイツなどの東ヨーロッパなど)が出場しなかったため、本当の意味での世界一決定戦となはならなかった。そのため今回は、88年ソウル五輪から、「世界選手権―五輪」という形の連続メダリストがどれくらいいたかについて、見てみたい。

世界選手権ー五輪における2大会連続メダル獲得者の割合を示したグラフ 【スポーツナビ】

「87年世界選手権ローマ大会―88年ソウル五輪」から、「2011年世界選手権テグ大会―12年ロンドン五輪」まで、世界選手権のメダリストが、翌年の五輪でもメダリストになった割合をみていくと、平均で、わずかに約4割(39.37%)となる。つまり、世界選手権でメダルを取っても、約6割の選手は、翌年の五輪でメダルを取れていない。つまり、世界選手権と五輪は、違う戦いであることが分かる。

<2年連続でメダルを取った選手 各大会の割合>
87年ローマ大会−88年ソウル五輪:46.03%
91年東京大会−92年バルセロナ五輪:34.11%
95年イエテボリ大会−96年アトランタ五輪:39.39%
99年セビリア大会−00年シドニー五輪:33.33%
03年パリ大会−04年アテネ五輪:36.23%
07年大阪大会−08年北京五輪:39.01%
11年テグ大会−12年ロンドン五輪:46.81%

競歩・鈴木の連続メダル獲得は難しい!?

 次に男子に限って割合を見てみる。

男子選手における連続メダル獲得者の割合 【スポーツナビ】

 男子のみで見てみると、35.71%と全体に比べて、やや割合が低くなる。

 さらに種目別で見ていくと、1500メートルと20キロ競歩では、連続メダルを達成した選手はわずか19.05%しかいない。

 今回、日本は20キロ競歩に、世界記録保持者の鈴木雄介、今季世界ランキング4位の高橋英輝(ともに富士通)というメダル候補の選手がいる。世界選手権でメダルを取るとと、過去の例では、翌年の五輪でメダルを取る選手が少ないわけだが、鈴木、高橋には、その数少ない活躍を願いたい。

 1万メートルだけは57.14%と、世界選手権メダリストの半分以上が五輪のメダリストになっていることが分かる。これは1990年代のハイレ・ゲブレシラシエ(エチオピア)、2000年代のケネニサ・ベケレ(エチオピア)という、長期間にわたって活躍した偉大な2人のランナーがおり、この2人が、世界選手権でも五輪でも、メダルを取り続けていたことが大きく影響している。

<男子種目別 連続メダル獲得者の割合>
100m:33.33%、200m:23.81%、400m:28.57%
800m:33.33%、1500m:19.05%
5000m:38.10%、10000m:57.14%、マラソン:23.81%
4×100mリレー:38.10%、4×400mリレー:42.86%
110mH:38.10%、400mH:38.10%
3000mSC:42.86%
走高跳:33.33%、棒高跳:33.33%、走幅跳:42.86%、三段跳:38.10%
砲丸投:23.81%、円盤投:47.62%、ハンマー投:42.86%、やり投:42.86%
20km競歩:19.05%、50km競歩:38.10%
十種競技:38.10%

女子の連続獲得率は高い

 一方の女子は、以下の通りだ。

女子選手における連続メダル獲得者の割合 【スポーツナビ】

 男子に比べると比較的、「世界選手権―五輪」の連続メダル獲得が多い。800メートル、3000メートル障害、棒高跳、三段跳、円盤投、ハンマー投という6種目では、世界選手権でメダルを取った選手の50%以上が、翌年の五輪でもメダリストになっている。

 円盤投は、男子もほぼ50%に近い選手(47.62%)が連続メダルを取っているが、これは円盤投という種目が、陸上競技の中で、世界的に競技人口が限定的で、メダル候補の選手が限られている種目ということなのだろう。

 女子の場合、ハンマー投で58.33%、3000メートル障害では66.67%が連続メダルを獲得しており、こうした種目は、今年の活躍が、来年の活躍の予測につながる種目となりそうだ。

<女子種目別 連続メダル獲得者の割合>
100m:28.57%、200m:42.86%、400m:38.10%
800m:52.38%、1500m:23.81%、3000m:50.00%
5000m:33.33%、10000m:33.33%、マラソン:33.33%
4×100mリレー:66.67%、4×400mリレー:76.19%
100mH:19.05%、400mH:47.62%
3000mSC:66.67%
走高跳:47.62%、棒高跳:50.00%、走幅跳:42.86%、三段跳:53.33%
砲丸投:47.62%、円盤投:52.38%、ハンマー投:58.33%、やり投:47.62%
10km競歩:33.33%、20km競歩:16.67%
七種競技:38.10%

※3000メートルは92年バルセロナ五輪まで、10キロ競歩は96年アトランタ五輪までの記録となっている
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著者プロフィール

1959年、東京生まれ。青山学院大学理工学部卒。82年、スポーツニッポン新聞社に入社。アマ野球、プロ野球、北米4大スポーツ、長野五輪などを担当。01年5月に独立してスポーツライターに。著書に「幻の東京カッブス」(毎日新聞社)、「イチローは『天才』ではない」(角川書店)、「10秒の壁」(集英社)など。

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