ユナイテッドが続ける模索 移籍市場閉幕まで高まらないチーム力

田嶋コウスケ

チーム作りはイチから作り直し

アンヘル・ディマリアの退団や、ダビド・デ・ヘアの移籍が濃厚となるなど、ファン・ハールにはいくつかの誤算がある 【写真:ロイター/アフロ】

 ここで忘れてならないのは、昨シーズンから合計で17名もの主力選手を放出、もしくは契約満了で退団させている事実である。ネマニャ・ビディッチやリオ・ファーディナンド、ダニー・ウェルベック、パトリス・エブラ、香川真司、ダレン・フレッチャーらが次々と離れていった昨季から人員整理は止まらず、今夏もロビン・ファン・ペルシやナニ、トム・クレバリー(昨シーズンはアストンビラに期限付き移籍)が退団した。2シーズン前まで監督を務めていたアレックス・ファーガソン、そして混乱を極めたデイビッド・モイーズ前監督時代のスカッドを振るいにかけ、代わりにオランダ人指揮官好みの人材を世界中から集めている。その作業はいったん作り上げた積み木を大胆に崩し、もう一度イチから作り直しているようにも映るが、17選手を放出し、代わりに11選手を補強してスカッドの総入れ替えを行えば、チーム作りに相応の時間を要するのは自然な流れだろう。

 しかも、ファン・ハールにはいくつか誤算もあった。政権の主軸になるはずのアンヘル・ディマリアは、マンチェスター郊外の自宅で起きた強盗未遂事件の影響がたたって不振。事件後、クラブOBのフィル・ネビルが所有する市内の高級マンションに身を寄せていた家族も不安を断ち切れず、結局、パリ・サンジェルマンへ旅立った。また、神がかったセーブでチームを支え続けてきたダビド・デ・ヘアも、レアル・マドリー行きが目前とされる。「慰留」を軸に「安価では売りたくない」「セルヒオ・ラモスとの交換トレードを希望している」というユナイテッド陣営は強気な姿勢を崩していないようだが、来夏にはフリーで出て行かれてしまうだけに交渉は「劣勢」だ。

選手補強は市場閉幕まで続く

 さらに、補強の必要性が叫ばれて久しいCFとセンターバック(CB)の強化も手付かずのままだ。放出濃厚とされるハビエル・エルナンデスの退団が決まれば、主力として得点が期待できるストライカーはルーニーのみ。英紙では、バルセロナのペドロを獲得し、ルーニーとデパイとの3トップ起用が予想されているが、そのスペイン代表FWでさえ、マンチェスター・シティの横槍が入って保証されていない。「ラモス級」のワールドクラスしか補強に動かないとも伝えられるCBも具体的な進展はない。

 おそらく、ファン・ハール監督は市場閉幕まで選手補強に尽力し、そこから戦術や戦い方を固めていくのではないか。思い返せば、昨シーズンの序盤も「3バックシステム」や「ショートパス主体のポゼッションサッカー」を積極的に取り入れて改革を進めた。ところが結果がついてこないと見ると、いったん棚上げ。手持ちの戦力を見極めた上で、MFマルアン・フェライニを軸にしたダイレクトサッカーに舵を切り、上昇気流に乗せた経緯がある。柔軟に戦い方を切り替え、トップ4まで順位を押し上げたのはファン・ハールの最大の功績だが──対照的にモイーズ監督は、ビッグクラブを率いるには戦い方の引き出しが圧倒的に少なかった──。改革の真っ只中にある現状を思えば、今シーズンも手探りで試合を重ねていく気がしてならない。

 チームの完成度で言えば、チェルシーとマンチェスター・C、アーセナルを下回るのが実情だろう。それだけに、市場閉幕までの選手補強、それからファン・ハールの采配・手腕で、政権2季目の最終順位が決まってきそうだ。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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