23年ぶり日本新へ、29歳で挑む世界陸上 走幅跳・菅井を成長させた“継続の力”
なかなか縮まらなかった10センチ
勢いのある跳び出しを目指し、走力アップにも力を入れている 【スポーツナビ】
当時の菅井が目指していたのは、五輪や世界選手権ではなく、走り幅跳びの選手なら誰もがあこがれる8メートル超え。だが、翌年の日本選手権で8メートル00を跳び大目標をクリアすると、「あと10センチ(記録を)伸ばせば、世界に出られる」と、意識が変わり、世界をその目に捉えるようになった。さらに翌10年には、8メートル10まで記録を伸ばし、同年秋のアジア大会に初出場。少しずつ世界へと近づいていった。
しかし、そこから今年4月に自己ベストを更新するまでの約5年間、再び記録が低迷する。毎年8メートル前後は跳ぶものの、あと10センチがなかなか縮まらない。国内大会では結果を残したが、代表選考のそ上にのる標準記録に届かず、11年のテグ世界選手権、12年ロンドン五輪、13年モスクワ世界選手権といずれも出場はかなわなかった。
「年齢がどんどん重なって20代後半になってくると、イメージ的に30歳くらいになると体力的に落ちるのかなと思っていたので、そういう不安みたいなものはありました。(この5年間は)全然ダメな記録ではなかったのですが、今までやってきたことが一通りできるようになって、そこからのプラスアルファの部分がなくなってしまったのだと思います」
菅井は、その“プラスアルファ”は「勢い」であると分析。速い助走から、勢いを殺さずに踏み切る技術が必要と読んだのだ。そのための練習を始めたものの、なかなか走力を上げられず、上がったと思えば今度は踏み切りが合わずと、足踏み状態に。追い打ちをかけるように、13、14年はけがにも苦しみ、悩みも深くなっていった。
決勝進出へ「攻めの気持ちを忘れずに」
好調を維持している今季。北京でもビッグジャンプを狙う 【スポーツナビ】
ただ、けがに悩まされた時期が長かっただけに「もうけがはしたくない」と、自分の体と相談し、コンディションには人一倍神経をとがらせてきた。そのことが結果的に、パフォーマンスの向上につながっている。
「20代前半に(がむしゃらに)練習をやっていた時期があるので、『練習をしなければいけない』という気持ちはずっとありました。練習が積めなくなってくると、『もう選手としてはこのままズルズルいってしまうのではないか』という気持ちもあったので、なかなか練習を休めず、それがけがにつながっていたと思います。ある程度、その気持ちと体をセーブしながらできるようになったのが去年くらい。そのあたりのコントロールができるようになったのは良かったと思います」
そうしてつかんだ初めての世界選手権出場。掲げる目標は決勝進出だ。「強い海外選手たちを実際に見ても、のまれないようにしないといけないと思っています。自分のリズムを崩さずに、守りに入れば絶対に負けてしまうので、攻めの気持ちは忘れずにいきたい」と決意は固い。一方、23年間破られていない日本記録(8メートル25)更新については、「狙ってはいますが、やはり気持ちだけ前のめりになっても崩れてしまう。今は自分の動きをしっかりして、いつでも出るような状況を作っておくということが一番の近道とは思います」とマイペースを崩さない。
「今までやってきた失敗や経験を生かし、伸ばせるものはもっと伸ばしていきたい」と先を見据える菅井。思うような結果が出なくても、愚直に努力を続けてきた職人の挑戦は、これからも続いていく。
(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)