ドタバタの初開催、草むらに消えた第1号 夏の高校野球・第1回大会物語(後編)

楊順行

京都二中が延長サヨナラ勝ちで優勝

今大会、第1回大会に参加した10校は復刻ユニホームで開会式に登場。鳥羽高は京都二中の復刻ユニホームで行進する 【写真は共同】

 この大会で優勝候補と言われたのは、早稲田実だった。事実19日の初戦では、西の横綱と言われた兵庫の神戸二中(現・兵庫高)を2対0で破っている。準決勝の相手は、秋田中(現・秋田高)。だが前日から、関西在住の校友が宿舎に駆けつけ、「さあ、優勝だ」とお祭り騒ぎを繰り返したせいか、1対3で敗れ去る。秋田中の長崎広投手の速球に手を焼き、散発の3安打では勝ち目はない。

 決勝は、秋田中と京都二中(現・鳥羽高)の組み合わせとなった。京都二中は、和歌山中(現・桐蔭高)との引き分け再試合を制しての進出である。約5000人の観衆が見守る大一番は、秋田中が1点をリードした8回裏、スクイズを警戒した秋田中・長崎の投球が高めに外れ、京都二中の三塁走者がホームイン。1対1のまま延長に入った。

 13回裏、京都二中の攻撃だ。大場義八郎が、中堅手の落球に恵まれて二塁に滑り込む。続く津田良三は、強烈な二塁ゴロ。大会前に急きょ部員になった斎藤長治二塁手からの一塁送球が低く、信太貞一塁手がこれをなんとか抑えるが、好スタートを切っていた二走の大場がホームに突っ込む。信太は体勢を崩しながら本塁に投げたが、間一髪間に合わず、京都二中がサヨナラ勝ちで晴れの優勝を飾ることになる。

もし秋田中が優勝していれば……

『京二中創立八十周年記念誌』によると、「勝利の主因は、秋田中学の試合を観て研究の結果、秋中の打撃の最大欠陥がカーブに弱いことが明らかになったので、わが藤田(元)投手に全投球といってよいほどアウトカーブを連投せしめ、この作戦が図に当たったのである」 

 ほほ笑ましいレベルかもしれないが、そのころから強豪校では対戦相手の分析が盛んだったわけだ。

 それにしても――今にして思う。高校野球では春夏ともに、いまだ東北のチームの優勝がない。決勝には10回進出しながら、だ。大旗の“白河越え”は、東北勢100年の悲願ともいえる。だが、もし第1回の秋田中が優勝していれば、“白河越え”という決まり文句は生まれていない。さて、この夏。仙台育英(宮城)、聖光学院(福島)などの強豪が挑む白河越えは、初めて実現するのか、それとも……。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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