谷繁、記録更新で迫る決断のとき 一刻の猶予もない“後継者指名”

ベースボール・タイムズ

期待が高まる桂と杉山

今季初スタメンとなった4月21日にいきなりプロ初本塁打を放った桂(右)。杉山とともに正捕手どりへさらなる活躍が期待される 【写真は共同】

 今季の開幕戦でスタメンマスクを被ったのは“ポスト谷繁”の大本命と目されていた松井雅人だった。昨季、中日の捕手では2番目に多い67試合に出場して経験を積み、今季もここまでチームトップの51試合(先発41試合)に出場し、正捕手に一番近い存在だった。

 しかし、7月2日に2軍降格。原因の一つが、打率1割3分5厘と奮わない打撃だ。せめて出塁率や得点圏打率だけでもある程度の数字を残してもらいたいところだが、いずれも1割台と低調。リード面が最重要視されるポジションとはいえ、打線の中で投手を含め2人も計算できなければ得点力が下がるのは言うまでもない。そして、筆頭候補の伸び悩む間に台頭したのが、桂依央利、杉山翔太の若手コンビだった。

 最初に名前を売ったのは2年目の桂。4月21日の東京ヤクルト戦(ナゴヤドーム)でプロ初スタメンを果たすと、第2打席でプロ初安打となるソロ本塁打を放った。さらに第3打席でもヒットを放ってマルチ安打を記録。ここまでの21試合(先発16試合)に出場し、打率2割4分、出塁率2割6分9厘と及第点の数字を残している。

 一方の3年目・杉山は、桂以上に打撃面でアピール。早稲田大時代に東京六大学リーグの三冠王にも輝いた打棒を発揮し、ここまで24試合(先発15試合)に出場して打率2割4厘ながら、得点圏打率3割7分5厘の好成績。6月27日の広島戦(マツダスタジアム)では相手エース・前田健太から3ランも放った。また、プロ初スタメンとなった5月26日の福岡ソフトバンク戦(ナゴヤドーム)で先発のバルデスを巧みにリードするなど、投球を受けてから返球までの間隔を意図的に短くしたテンポの良さで首脳陣からの評価も高い。

正捕手候補への英才教育となるか

 出塁率の高さで貢献する桂と、勝負強さを売りとする杉山。“8番目の打者”としてどちらも楽しみなピースだが、現在、正捕手争いで一歩リードしているのは桂の方だ。7月に入って18試合中13試合にスタメン出場。7月11日の広島戦(ナゴヤドーム)の6回2死一、二塁の場面では、先発・八木智哉の投球がワンバウンドになった際にダブルスチールを狙われるも、冷静な対処で一塁走者・シアーホルツを二塁で刺した。捕手に対してめったなことでは褒めない谷繁監督も「やみくもにやったプレーじゃない。あれは素晴らしかった」と賛辞を送った。

 常々、谷繁監督は「競争によってポジションをつかみ取るべきである」との考えでチームづくりを進めてきた。少ないチャンスを自らの手でモノにした選手はたくましく、事実、亀澤恭平や遠藤一星などは激しいポジション争いの中から頭角を現している。しかし、代えのきかない「捕手」というポジションにおいては、メインに育てていく人材を見定めて英才教育に踏み切るべきとの声も多い。歴代最多出場の捕手という最高の手本、贅沢な教材を存分に生かせるうちに“後継者指名”の決断が求められる。

 その一方で、他球団からの補強というすべもある。谷繁監督自身が移籍組なのだ。しかし、昨年のオフは調査を進めていた埼玉西武・炭谷銀仁朗、東北楽天・嶋基宏が、ともにFA宣言せずという結果に終わった。今オフは、この2人に加えて北海道日本ハム・大野奨太もFA権を獲得する見込みだが、獲得の保証がないFA補強を今からアテにするようでは、同じ轍(てつ)を踏むのではないだろうか。

 後半戦開始直後の練習日には、谷繁監督がマンツーマンで桂を指導する光景もあった。残り50試合。“歴代最多出場捕手”が、監督として下す決断に、ドラゴンズの明るい未来があることを期待したい。

(文:高橋健二/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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