前半戦“陰のMVP”…中村晃の適応力=鷹詞〜たかことば〜
工藤監督のアイデアを可能にする働き
勝負強い中村が7番に座ることで得点の期待が高まる。後半戦も鷹の勢いは止まりそうにない。左から中村、松田、李大浩 【写真は共同】
「初回ノーアウト一塁で送りバントをするより、2番打者がヒットでつないでノーアウト一、二塁もしくは一、三塁とチャンスを拡大する方が、ピッチャーにとっては嫌なんだ」
いかにも投手出身の工藤監督らしい発想で、今季のホークスは「2番・中村」でスタートした。だが、1番打者を務めた本多雄一が不調、その後、故障離脱したこともあって中村は早い段階で1番に戻った。
4月29日、工藤監督は打順を組み換え、1番には今宮健太を起用した。「(昨季まで主に2番)制約のある打順よりも、ノビノビと打てる打順の方が彼の能力を引き出せるのでは」との理由だ。これにより中村はしばらくの間、2番を打つことに。しかし、今宮の打率がなかなか上がらず、5月27日からは結局、中村が1番に戻った。
それから半月後、6月14日に新打順がお目見えする。「7番・中村」である。工藤監督はこのように説明した。
「3番から6番までのバッターが皆3割を打っている。チャンスで回ってくる可能性の高い7番打者に中村選手を据えることで、得点できる確率も高くなる」
打順は関係ない、勝負強さも兼ね備える
1番 36試合 .309(.377)
2番 17試合 .338(.442)
6番 1試合 .750(.800)
7番 18試合 .339(.432)
※( )内は出塁率
藤井康雄チーフ打撃コーチによれば、「本人は『どこでも構いませんから』と言ってくれている」とのこと。藤井コーチ自身は現役時代、オリックス・ブルーウェーブの一員として仰木彬監督の下でプレーし「仰木マジック」を体感している。そのことについて、以前に「本音で言えば、やりにくかった」と聞いたことがある。それだけに中村の献身的な部分には、感謝ともとれる表情を見せ、「打順もそうだし、守備も一塁を守ったりライトを守ったりして大変だと思うけど、しっかりやってくれている」と話すのだった。
中村本人に打順について尋ねると、「特に意識はしていない」というサラリとした答えが返ってきた。
「変に意識するからダメだと思います。打順は何番でも、打席は打席であってピッチャーとキャッチャーとの勝負だと思っています。自分のできることをやるだけなんです。ルーティン? そういうものに縛られたくないので、特に考えていません」
昨季、1番を打つようになったころにも「1番打者といっても、意識するのは初回だけ。あとはどの打順でも同じです」と話していた。
前半戦終了時点まで、ソフトバンクは「7番・中村」で戦った。実は中村の得点圏打率はリーグ唯一の4割台(4割3厘)。チャンスメーカーのイメージが強いが、勝負強さも兼ね備えているのだ。その効果もあり、6月14日以降の1試合平均得点は5.3点をマーク。7月5日のオリックス戦では金子千尋を攻略して1イニング9得点の猛攻があれば、同11日の千葉ロッテ戦では3点ビハインドの7回表に5点を奪って試合をひっくり返した。翌日も1対1で迎えた9回表にやはり5得点を奪って勝利。勝ち方が、まるで横綱である。
20日(ソフトバンク対ロッテはグラウンド不良のため中止)からの後半戦。ホークスは毎年恒例のイベント「鷹の祭典」6試合からスタートする。「熱男レボリューションイエロー」一色に染まった熱烈な声援を味方に、リーグ連覇へ向けた再スタートを切る。鷹の独り旅は、このまま止まりそうにない。