中田浩・柳沢・新井場が歩む新たな道 スターたちが彩った華やかな合同引退試合

元川悦子

多くの関係者が花を添える

中田浩(前列左から2人目)、柳沢(前列右)、新井場(前列左)の引退試合に三浦知(右から2人目)らそうそうたる面々が一堂に会した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 梅雨本番を思わせる大雨にもかかわらず、カシマスタジアムに2万人超の大観衆を集めて行われた5日の中田浩二・柳沢敦・新井場徹の合同引退試合。鹿島アントラーズOBの秋田豊、名良橋晃、日本サッカー界の看板的存在の三浦知良、中山雅史らそうそうたる面々が一堂に会するとあって、会場は凄まじい熱気に包まれた。キックオフ前には、鹿島に1996年加入の柳沢・平瀬智行、池内智彦の同期3人、同98年加入の中田・小笠原満男・本山雅志・曽ヶ端準・山口武士・中村祥朗の同期6人のトークショーが実施され、現在国内でリハビリ中の内田篤人も来場するなど、多くの関係者が3人の節目に花を添えた。

 試合の方は、鹿島にゆかりのある選手たちで構成される「ANTLERS LEGENDS」と、3人が日本代表や他クラブなどで関わった選手で構成される「KAY FRIENDS」が90分勝負に挑む形を取った。過去の引退試合では主役が両チームに入ってプレーするのが恒例だったが、今回は「鹿島の選手として最後まで戦いたい」という3人の希望から前者のみに参戦した。

 先発メンバーは、「ANTLERS LEGENDS」がGK佐藤洋平、DF(右から)名良橋、秋田、奥野僚右、新井場、ボランチ・本田泰人、中田、右MF鬼木達、左MF増田忠俊、FW柳沢、平瀬の4−4−2。対する「KAY FRIENDS」はGK武田博行、DF(右から)田中誠、鈴木秀人、木場昌雄、右アウトサイド山田暢久、左アウトサイド波戸康弘、MF戸田和幸、名波、三浦淳寛、FW三浦知・中山という3−5−2。現役の中村俊輔や小野伸二はベンチスタートとなった。キャプテンマークはそれぞれ柳沢と三浦知がつけた。

柳沢が先制弾、新井場もドリブルで魅せる

ゴールラッシュの口火を切ったのは柳沢(赤)。先制点をマークし、相手からも祝福される 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 かつて10冠を超えるタイトルを手にした中田・柳沢、07〜09年の3連覇の原動力となった新井場らしく、勝利に強くこだわる姿勢が試合冒頭から色濃く感じられた。ゴールラッシュの幕開けとなったのは、前半17分の柳沢の先制点。左サイドを駆け上がった新井場のシュートをGK武田がはじくと、こぼれ球に鋭く反応。右足ボレーを決めたのだ。鹿島トップチームのコーチに転身して半年が経過し、運動量や動きのキレはやや鈍ったものの、ゴール前のポジショニングや動き出しの速さ、チャンスメークのうまさといった柳沢の特徴は依然として健在だった。

 だが、対戦相手も負けていない。30分には三浦知が華麗な直接FK弾でスタジアムを沸かせる。「俊輔も伸二もいないうちに蹴っておこう」とリラックスして振りぬいた一撃がネットに突き刺さり、本人も苦笑い。柳沢に「決めちゃってごめんね」と土下座するパフォーマンスも見せた。「カズさんはお祭り男というか、こういう時には必ず決めてくる」と新井場も感心するばかりだった。

 鹿島の2点目は前半39分にその新井場が挙げる。スタンドから「点を取ってくれ」を繰り返し煽られた男は、約80メートルの弾丸ドリブルで6人抜きから右足を一閃。スタンドの大歓声に応えた。彼は中田、小野、稲本潤一らと同じ79年生まれの黄金世代でありながら、日本代表歴はフィリップ・トルシエ時代の候補止まり。鹿島には9年間在籍し、力強くチームを支えたが、他2人に比べるとキャリア的には地味な印象があった。けれどもこの日は、持ち前の明るさと関西ノリで完全に主役として君臨していた。「こうやって自分が引退試合に呼んでもらえたことだけで幸せ。高校3年だった97年7月5日の浦和レッズ戦でプロデビューを飾り、15年7月5日に引退試合をするというのは運命的なものを感じる」と感慨深げにコメントしていた。

中田もゴールを決めて満面の笑み

PKを決めて中田もゴール。仲間たちから胴上げされ、満面の笑みを浮かべた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 前半は「KAY FREINDS」で途中出場した福西崇史が2点目を奪って2−2で終了。後半に突入する。鹿島側に興梠慎三や田代有三ら、対戦相手側に中村や小野、中澤佑二と現役選手が次々と姿を現す中、やはり注目されたのは中田がいつ点を取るか。興梠が3点目を挙げ、3−2となった後半23分、「KAY FREINDS」の久保竜彦がPKゲット。次の瞬間、中田がとっさにユニホームを着替えて蹴りに行ったが、長年の盟友・曽ヶ端準に防がれてしまう。再び鹿島側に戻った中田にはこれ以外にも数多くのチャンスが巡ってきたが、どうしても1点を決めきれない。

 スタンドからも叱咤(しった)激励の意味を込めたブーイングが何度か起きた後半39分、柳沢が半ば強引にペナルティーエリア内で倒れこみ、PKをゲットする。主審もバニシングスプレーで「KOJI」と書いて、中田のゴールを熱望した。ここまで舞台が整ったら、もう決めるしかない。背番号6をつけた男は左足を振りぬき、ようやくゴール。仲間たちから胴上げされ、満面の笑みを浮かべていた。「いろんな邪魔が入って点を取るのに時間がかかったけれど、90分間フル出場できてよかった」と本人も冗談交じりに安堵(あんど)感を吐露していた。最終的にはマルキーニョスも1点を追加し、鹿島側が5−2で圧勝。3人の引退を華々しく飾った。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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