ラグビー日本代表・藤田慶和の挑戦 「花園の怪物」から世界のトップへ

斉藤健仁

スピードは世界トップに近い数値

マニックスコーチ(左)らの指導を受けて、スピード、タックルが向上している 【斉藤健仁】

 実は、今春最初のジョーンズHCとの1対1のミーティングにおいて、藤田は「スピードとタックルを伸ばしてほしい」と課題を指摘されていた。タックルも少しずつ良くなっている。DFコーチのリー・ジョーンズ、タックル専門のスポットコーチである元13人制ラグビーのプロ選手だったマックス・マニックスのマンツーマンの指導を受けている姿があった。6月の紅白戦では相手の上半身をつかんで引き倒すタックルも決め、「もっと伸ばしていかないといけないですが、自分の中では確実に感触が良くなっています」と手応えを感じている。

 またスピードもウェールズ代表も担当して5年目を迎えている、ランニングのスペシャリストであるスポーツサイエンスコンサルタントのフラン・ボッシュ氏の指導もあって、練習で世界のトップ選手に近い秒速9メートルという数字を出すなど、少しずつ伸びているようだ。「GPSの数値は上がっていると言われましたね。またスピードに乗ってボールをもらったときとかはステップも切りやすい」(藤田)

バーバリアンズで世界のトップ選手とプレー

世界のトップ選手が集まる「バーバリアンズ」に選ばれ、イングランドXVと対戦 【Getty Images Sport】

 実はボッシュの指導だけでなく、藤田には吹っ切れるきっかけとなった出来事があった。それは5月末、125年の伝統を誇るイングランドのクラブ「バーバリアンズ」に選出され、ラグビーの「聖地」であるトゥイッケナム・スタジアムでイングランドXVと戦った試合だった。
 藤田は「ヒガシ(東福岡)は自分を成長させてくれたし、早稲田大のおかげでこうして日本代表の今の自分があります。その感謝の意味を込めて」と右足には東福岡のモスグリーン、左足には黒とえんじの早稲田大の靴下を履いて臨んだ。試合には負けてしまったが、世界一流の選手たちと体を当てて得たものがあったようだ。

「練習でやってきたことが、確実に試合で出すことができるようになってきましたが、バーバリンアンズ戦から戻ってきて、自信がついたのかもしれません。前よりも積極的に外で勝負できるようになりました。また相手との間合いを自分からつくりにいくことができています。そういったときは調子が良いときです」

 ジョーンズHCの藤田に対する評価は、「努力はしていましたし6月の合宿は素晴らしかったが、まだまだ」と厳しい。しかし、藤田は左膝、右肩のケガから復調し、コンディショニング的にはほとんど問題ないと言っていいだろう。もともとWTBとしてスピードとタックル以外のプレー、例えばパスやキック、ハイボールの処理やスペースを突くラン、ラックで相手をはがすロールといったプレーは一級品である。

「毎日を大切にして、日々成長できるように」

福岡堅樹(左)、五郎丸歩(右)とともにW杯で強豪撃破を目指す 【斉藤健仁】

 そんな藤田の目標は、クルセイダーズの一員としてプレーすることだ。2〜3月に留学したときも、「ヘッドコーチのトッド・ブラックアダーに『いつも見ているから頑張れよ!』と言われました。一つ一つの試合が世界に、スーパーラグビーにつながっていると思います」。そのためにも、まずはアメリカ代表、カナダ代表、フィジー代表、そして順位決定戦ではサモア代表と戦う可能性のあるPNCで、さらなる成長を遂げて、W杯のメンバー入りをアピールしたいところだ。

 ワールドカップまであと100日を切ったが、藤田は決して焦った様子を見せない。この4年間、7人制だけでなく15人制で世界と、そしてケガとも戦い続けた藤田の最大の長所は、メンタルの強さ、そして常に笑顔を絶やさず前向きな心意気だ。「あまり、先のことは見てなくて、毎日を大切にして、日々成長できるように頑張りたいです。また課題を一つ一つクリアすることで結果が出てくると思います」

 今まさに、花園の「怪物」は、総合力に長けたフットボーラーとして、一皮むけようとしている。W杯のスコッドを勝ち取り、世界に通じる選手に進化することができるか――藤田の挑戦は続いていく。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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