鈴木彩香と山口真理恵、それぞれの戦い 女子ラグビーを引っ張ってきた2人の今

斉藤健仁

五輪に向けて会社を辞め、ラグビーに専念

山口真理恵はラグビーに専念し、五輪出場を目指す 【斉藤健仁】

 山口は、オリンピックの予選を控えた今年の2月、務めていた会社を辞めてラグビーに専念する決心をする。4月からは地元の横浜の中華街にある「元祖ブタまん」で有名な「江戸清」などのスポンサードも受けている。「オリンピックにはもちろん、出場したい。そのために競技に集中できる環境に身を置きました。日本が置かれている状況を考えて、できることをどれだけ伸ばせるか。プレッシャーの中でパフォーマンスを発揮することが大事」と自分の置かれた状況を冷静に見つめている。

「仕事とラグビーを両立しないといけない」と、どこか気を張っていた姿はもうない。「ビジネスモードというか、大人ぶっていたのはちょっとわかる気がします(苦笑)。少しフレンドリーになりましたね」と笑顔を見せる山口は、まるで高校時代のような自然体かつチャレンジングな気持ちで競技に打ち込んでいる。

大ケガにも気持ちは折れなかった鈴木

大ケガからの復活を期す鈴木彩香 【斉藤健仁】

 一方の鈴木は、2013年、2度目のセブンズのワールドカップに出場した後は、表舞台から遠ざかっていた。バイトをしながらも時間をやり繰りして練習に精を出していた関東学院大から、よりラグビーに専念するため立正大の大学院に進学。勉強の両立にも取り組んだ。だが扁桃腺が腫れてしまい、2度の入院を経て、3度目には手術を行うなどコンディションを崩してしまった。「論文も書かないといけないので、精神的に疲れていたのかな」(鈴木)

 ただ2014年からは立正大の職員となり、立正大がバックアップする「アルカスクイーン熊谷」で小学生を中心にコーチも始めた。そして迎えた2015年1月、セブンズの強化合宿には、久しぶりに山口だけでなく鈴木の名前があった。再び、ともに日本代表に向けて調子を上げていくと思われた矢先、その合宿の終盤。鈴木は左膝の前十字靱帯を断裂の大ケガを負ってしまう。好事魔多し、だ。「久しぶりの日本代表の合宿で疲労もたまっていたのかもしれません。無理しないと復帰にアピールできないなと思っていたので……」(鈴木)

 だが、鈴木の気持ちは折れなかった。「ケガをしても後ろ向きになったことは一度もなくて、そういう運命だったと受け入れています。私は45歳くらいまで、できる限り好きなラグビーをやりたい。その尺度で考えたら、たいしたことではないかなって……」。手術後、すぐにリハビリを始めた鈴木は、すでに走ることができる状態まで回復している。

「今年の目標はオリンピック予選を戦う12名のメンバーに入ること。子どもたちの夢を閉ざさないためにも、オリンピックには出ないといけない。若い選手たちにどうフィットするかはわかりませんが、体が動けば戦える自信はある」(鈴木)

リオ五輪で大きな花を咲かせるために

「ラグビーに生かされている」と感謝の気持ちを忘れずにいる鈴木彩香 【斉藤健仁】

 盟友である山口は「彩香は気持ちがあるので、すぐに戻ってくると思います」とさほど心配している様子はなく、戦友だった浅見HCも、オリンピック予選に向けて「勝ちにいくチームを作る」と宣言する中で、「プライドもあると思うのでやってくれるはず」と、前を向いてスペースを攻めることができる司令塔の復帰に期待を寄せていた。

 そして7月からのセブンズの強化合宿のメンバーに、山口とともに鈴木の名前もあった。

 大学時代はラグビーに一生懸命過ぎて「つんつんしていた。怖かったと言われます(苦笑)」という鈴木。今では「ラグビーに生かされている」と感謝の気持ちを忘れず、真摯(しんし)にリハビリに励んだ成果である。

 現在の女子ラグビー界を見れば、経験豊かな2人は「ベテラン」と言っても差し支えないだろう。もちろんまだ、競争の中にあるが、若手選手が伸びてきた一方で、大舞台で戦うことを考えれば、浅見HCは2人の経験を買っていることは明らかである。
 小学校時代、ともにタグラグビーで楕円球を追い始めた幼なじみは、今、立派なアスリートとして心身ともに充実した時期を迎えている。来年、リオデジャネイロで大きな花を咲かせるためにも、まずはともに日本代表に選出され、アジア予選突破に全精力を注ぎたい。

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント