チーム一丸で戦うなでしこが帰ってきた 宮間の修正力、澤が見せた笑顔の理由

江橋よしのり

澤穂希はなぜ、笑顔で交代したのか

後半12分、澤(右)は川村の緊張をほぐすためにも笑顔で走って交代した 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 後半12分に、澤はピッチを退き、川村優理と交代した。佐々木監督は「ウォームアップの時から少し体が重たそうだったことと、(相手が攻勢を強めて)ハードな展開になったことを考慮して、けがにつながる前に交代させた」と、その意図を説明したが、澤本人は自身のプレーに不満はなかったはずだ。

 彼女ほどの選手ならば、「もっとやれるのに、まだまだ僅差なのに、どうして私が交代?」と思ってもおかしくないし、1−0でリードしている展開ならば、遅延行為とみなされない程度にゆっくり交代に時間をかけても許されるはずだ。

 しかし、彼女は笑顔で走って交代した。

「だって優理がW杯初出場で緊張している感じだったから」

 これから初舞台を踏む後輩に、「W杯のピッチは、楽しい場所なんだよ」と伝えたくて、澤は笑顔を振りまいたのだ。澤はいつも、言葉ではなく、行動や表情で大事なことを伝える。それができるベテランがいるチームは、やはり頼もしい。

戦うなでしこ、復活

試合前に福元が鼓舞した山根は無失点で勝利に貢献。見事チームメートの期待に応えた 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 試合終了まで、なでしこファンにはハラハラドキドキする展開が途切れなかったものの、結局1−0でフィニッシュ。なでしこジャパンは隠れた難敵であるスイスを破り、勝ち点3を獲得した。

 劣勢の展開でも、目の前で起きている問題に対し仲間同士が知恵を出し合い、集団で対処する。内容で圧倒できなくても、勝負には勝つ。そのような試合をものにできるのは、なでしこが世界で一番だろう。ロンドン五輪以降、チームの歯車がなかなか噛み合わず、昨年のアジアカップ優勝後もちぐはぐなサッカーに後戻りした印象のなでしこだったが、ここへ来て「チーム一丸」の雰囲気がまたよみがえった印象だ。試合に出た選手だけではない。ウォームアップではGK福元美穂が、手をたたいてW杯初先発の山根恵里奈を鼓舞していた。試合後の円陣では控えに回ったDF近賀ゆかりや鮫島彩らが、戦い抜いた選手たちを笑顔で出迎え、祝福していた。

 チームのために、今の自分にできることを、全力で。

 一つになって戦うなでしこが、私たちの前に、また帰ってきた。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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