チーム一丸で戦うなでしこが帰ってきた 宮間の修正力、澤が見せた笑顔の理由
W杯初戦に臨んだなでしこは、宮間のPKでスイスに1−0と勝利した 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】
この試合を振り返るにあたり、まずはこのコラムの見出しを並べておこう。
(1)最初の駆け引きを制したのは……
(2)宮間あやの「カイゼン」サッカー
(3)澤穂希はなぜ、笑顔で交代したのか
(4)戦うなでしこ、復活
これら4つの観点について、触れていきたい。
最初の駆け引きを制したのは……
なでしこは、スイスが前からボールを奪いにくることを、知っている。
スイスは、スイスが前からボールを奪いにくることをなでしこが知っていることを、知っている。
事前の駆け引きに勝ったのは、どうやらスイスのようだ。スイスはこれまでの戦いぶりから一転、持ち前の強烈なプレッシングを封印。なでしこの様子をうかがうように待ち構えていた。なでしこは事前に立てた対策どおり、パスの本数を省略したシンプルな攻撃を中心にゲームを組み立てていた。
なでしこはゴール前に多くの人数を掛けられずにいたが、それでも8分には宮間のコーナーキックからDF岩清水梓がヘディングシュートを放ち、その2分後にはFW大儀見優季が相手と体を入れ替えて前進し、同じくFWの安藤梢を走らせた。
大儀見がボールを収めて、安藤がシュートエリアに走り込む攻撃は、その後も目立っていて、2人のコンビプレーがこの試合の突破口になるかと思われた。すると27分、DF宇津木瑠美から大儀見を経由したボールが、安藤の走るコース上に放たれる。しかし、安藤がボールにタッチした瞬間、相手GKテルマンと接触。なでしこジャパンはPKを獲得したが、安藤はしばらく起き上がることができず、このプレーを最後にピッチを退いた。
安藤を治療のためピッチの外に出し、PKからゲームが再開。「安藤選手が体を張って獲得したPKなので、何がなんでも決めなければと思っていた」という宮間が確実にゴールを決め、なでしこジャパンが29分に先制する。
ゴールとともに徐々にリズムをつかんできたなでしこは、相手のMFがボールサイドに寄って固まる傾向を見抜き、短いパス交換で相手をおびき寄せてから空いたスペースを利用する賢さを見せた。MFの阪口夢穂や、この日が日本代表通算200試合出場となったMF澤穂希らにシュートチャンスが訪れたが、追加点を奪えず前半を終えた。
宮間あやの「カイゼン」サッカー
宮間の修正力と実行力が、この日もチームを救った 【写真は共同】
いわゆる「大外」と呼ばれる、タッチラインに近い位置の選手を縦に走らせ、なでしこのサイドバック(この場合は左サイドバックの宇津木)を外につり出す。ライン全体が横にスライドする余裕はないため、宇津木とセンターバック熊谷紗希の間に、隙間ができる。その隙間に別の選手を滑り込ませることで、中央が薄くなったなでしこの守備を打ち破ろうという狙いだった。
実際、後半開始直後に、空けてしまったスペースを使われた。対応すべきだったのは宮間だが、彼女はその瞬間を「あの時は、やってしまったと思いました」と述懐する。結局、相手のクロスが精度を欠き、なでしこは命拾いをしたのだが、宮間はそのたった一度の出遅れを重く受け止め、すぐに修正した。大外を使われそうになるたびに、早めに察知して全力ダッシュでスペースを埋めるために走ったのだ。
「(宇津木)瑠美を誘導するのが私(サイドハーフ)の守備の役目。瑠美が思い切ってカバーのコースに走れるように、または思い切って目の前の相手に当たれるように、私は自分がどうすればいいかを常に考えています」と、宮間は自分の走りの理由を言葉にする。疲れた時間帯に、攻撃ではなく守備のために何本もダッシュを繰り返す精神力は並大抵ではないが、彼女の修正力と実行力の高さが、この日もなでしこを救う一因となった。