錦織も担当、日本人ストリンガーの矜持ー=全仏OPテニス・シーンの裏側

内田暁

常に新しい知識を得て、張り方を探求する

梼木さんは錦織(写真)や奈良ら、日本人選手も担当。それぞれの要望に合わせて張り方も変える 【写真:アフロ】

――ストリングを張るテンションは、同じ選手でも日によって変わることはありますか?

 これも、選手によって違います。特に、天気や気温は気になるところですから、選手に天候の相談を持ち掛けられることもありますよ。

 クレーと芝など、サーフェスによっても若干違います。ナダルのように、どんな時でもテンションを変えない選手もいますし、クレーでは少し硬めに張る人もいます。毎日の天候に合わせて変える人もいます。

――長年このお仕事をされていると、選手の傾向なども分かり、あうんの呼吸になってくるのでしょうか?

 そういうところもありますね。例えば大会中は、毎日夕方くらいに、翌日のスケジュールが出ます。するとそれを見れば、どの選手がいつごろ、何本くらいラケットを持ってくるかが分かる。なので、1日全体で、何時くらいに、どれくらいの本数のラケット張りの依頼が来るかというのは、予想がつきますよね。選手によっては、ラケットを事前に私たちのところに預け、スケジュールが出たら、それに合わせ適切な時間に張ってくれ……という依頼もあります。選手とストリンガーの間に信頼関係が生まれていると、そういうあうんの呼吸になってくるところはあります。

――ストリンガーを長くやってこられる中で、時代と共にラケットやストリングの在り方が変わったと感じる部分はありますか?

 ポリエステル製のストリングは、種類も増えたし、いろいろと変わってきています。ただ、ナチュラル(動物の腸の皮で作ったストリング)は昔からそんなに変わっていないんです。今は、フルポリ(すべてポリエステル製のストリングを使う)の選手と、ポリエステルとナチュラルを半々で使う選手が多いです。

 そのようにストリングが変わったというのもありますが、ラケットが変わったことにより、テンションの張りも変わってきています。フレームの素材などの変化により、どのくらいの強さで張るかは変わってきます。

 ですからストリンガーは、何十年もやっているからといって、以前から持っている知識にずっとこだわっていてはだめなんです。常に新しい知識を得て、新しいストリングやラケットが出た時には、まずは自分で張ってみて、「これだったら、どういう風にするのが良いか」というのを感じていくことが重要です。そこが止まったままですと、なかなか大変です。

 選手はプロとして、私たちに要望を出してくる。それにきっちり応えるのが、われわれのプロとしての本分です。 

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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