鍵はセッターとその前後に入る選手たち バレーボールの観戦力を高めるポイント

田中夕子

セッターを基準に攻撃パターンを予想

川北コーチはローテーションを見ると、チームの戦術や狙いが分かると話す 【スポーツナビ】

Q:S1って何? そもそもローテーションはどう見ればいいですか?

A:S1とは、セッターが1番のポジションにいること。ローテーションはセッターを基準にして見ましょう。

「S1」の「S」はセッター。セッターが1番のポジションにいるローテーションだから「S1」、6番のポジションにいるローテーションは「S6」といったように、セッターの位置を基準にしてローテーションを見ています。

 ローテーションで何が分かるか。まず、S1、S5、S6の時はセッターが後衛にいるということが分かるはずです。つまり、トスを上げるセッターが後衛にいるということは、前衛には攻撃する選手が3人そろっている。攻撃枚数が「3枚」の状態です。そこにプラスして後衛にバックアタックを打ってくる選手が何人いるのか。1人ならば攻撃枚数は4枚、リベロと交代して入る選手(大抵はミドルブロッカー)がバックアタックを打てるならば攻撃枚数は5枚といったように、ローテーションによって攻撃パターンを予想することができます。

 反対にS2、S3、S4の時はセッターが前衛にいますので、攻撃枚数は2枚しかない。つまり、前衛から攻めるパターンが減る分、バックアタックが増えるかもしれない。前衛にポジションを取るミドルブロッカーの選手は移動して攻撃を仕掛けてくるかもしれない。このように、相手の攻撃に対してどう守るか、相手のディフェンスに対してどう攻めるか、という戦術を練るための基本になるのがローテーションです。

ローテーションから戦術が見える

Q:ローテーションの順番はどうやって決まっているのですか?

A:バックオーダーとフロントオーダー、大きく2種類に分けることができます。

 時計回りにローテーションが回る中、セッターの前(S1ならばポジション6)にウイングスパイカーが入るのがフロントオーダー、後ろ(S1ならばポジション2)にウイングスパイカーが入るのがバックオーダーです。

 主流はバックオーダーですが、昨年の全日本や女子ロシア代表のようにフロントオーダーを用いるチームもあります。その狙いはチームによって異なりますが、1つ考えられるのはS1の時です。本来ならばコート右側からスパイクを打つポジション4の選手が左側、反対側から攻撃するポジション2の選手が右側からといったように、従来のポジションとは異なる位置から攻撃をしなければならないケースがあります。そのため、サーブレシーブからの攻撃がなかなか決まらず、S1を鬼門とするチームは少なくありません。

 ただ、ロシアのエカテリーナ・ガモワのように、セッター対角に入るオポジットの選手だけれど、レフトからの攻撃をより得意とする選手もいる。それならばポジション4に入るガモワの攻撃をより効果的に決めさせるために、ガモワが前衛にいる3ローテのうち、2回はレフトから攻撃することができるフロントオーダーを用いる、というのも1つの戦術として考えられます。

 攻撃を生かすために、守備を生かすために、誰をどこに配置するかというのはチームにとって非常に重要なポイントです。前述のガモワ選手のような例もあれば、2008年の北京五輪で優勝した米国男子チームは、バックオーダーでS4スタート、セッターが前衛で始まる配置でした。一般的に考えれば、攻撃を生かすためにセッターを後衛からスタートさせるチームが多い。なぜこの配置なのか。狙いは、セッター対角のオポジット、クレイトン・スタンリーの強烈なサーブで得点することです。加えて、スタンリーは前衛からの攻撃以上にバックアタックの決定率のほうが高く、ミス率も低かった。一見すると不利に思えるこの配列は、実はチームの強みを生かすために考え抜かれた戦術でもありました。

 連続得点するローテーションもあれば、連続失点するローテーションもあります。ただ単に「また点を取られた」と見るだけでなく、「なぜこのローテーションは点を取られるんだ?」と配置を見て、その理由を探ると、「なるほど」と思える理由が見つかるはずです。

 何気なく見ていたローテーションや配列が、各チームの戦術を分析するうえで非常に大きな役割を占めている。第二弾では「数的優位」を作り出すブロックと攻撃の駆け引き、試合中に最も重視される「効果率」をひも解いていく。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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