「岩下は悪くない」と語る大久保の願い 切望するJリーグと審判部の適切な対応

江藤高志

処分も辞さない強い信念

大久保はJリーグや審判部の適切な対応を切望している 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 さらに3つ目の論点で、大久保はJリーグと審判部に、適切な対応を切望している。岩下の広島戦でのラフプレーを確認した時点できちんとした処分を下しておけばよかった、ということ。ここで言う処分とは、ラフプレーを理由にした出場停止だ。

 広島戦でのラフプレーに対し、後日岩下に対して出場停止などの処分が下された場合、審判がこのプレーを見逃していたということになる。そうなれば広島対G大阪を担当していた主審に何らかのペナルティーが科される可能性があるのではないか。そう考えられる以上、岩下を出場停止にしないことで、間接的に審判を保護したように取られかねない対応を審判部や規律委員会がした、と考える人が出てきても不思議ではない。審判部や規律委員会がどのように判断したのかはわからないが、結果的に岩下は川崎戦に出場し、その岩下が大久保を手で止めたことで、広島戦での行為と相まってさらに批判されることとなってしまった。

 繰り返して言うが、大久保は自らが受けた岩下のファウルを、敵として適切なプレーだったと評価している。ただ、あれはレッドであるべきで、さらに言うとそれ以前に広島戦を正しく評価して出場停止にしていれば「また岩下か」というたぐいの批判は避けられたのではないか。そうしなかったから、こういう事態になったのであって「岩下がかわいそう」だと大久保は同情する。つまり、サッカーの本質のことを考えていないリーグや審判部の対応が問題なのだと。

 そういう発言がまた物議を醸し、リーグから何らかの処分が下るのではないか。呼び出されて事情聴取を受けさせられるのではないかという懸念を大久保に伝えると、彼は「オレはしゃべる。絶対にそうだもん」と強い信念を口にした。このやりとりで確信したことがある。大久保はとにかくより面白いサッカーを見せたいのだ。Jリーグを良くしたいのだ。

 何らかの違反や問題があった時、それを適切に処分しないとルールを守る意識が低下し、それが巡り巡って競技の良さを消すことになりかねない。自らの決定機を止められたファウルについて語る大久保の言葉の中にあるのは、ファンにサッカーを楽しんでもらいたいという純粋な思いだ。

 今回は大久保が当事者になったこともあり、彼の口から出た言葉になったが、サッカーを楽しんでもらいたいという思いは、Jリーグを戦うすべての選手の共通した考えのはず。この考えをJリーグと審判部には受け止めてほしい。今のままでは、守るべきものを間違えているのではないかと批判されても仕方ない。Jの試合において、何に価値を置くべきなのか。その問いに対し、Jリーグと審判部は、改めて向き合う必要があるのではないだろうか。

2/2ページ

著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント