巨人・小林、定位置獲得へ多すぎる問題 若返るセ捕手を野口寿浩が解説(前編)

スポーツナビ

巨人・小林は年長投手との意思疎通から

小林の送球技術は「なっていません」と厳しく指摘する野口氏。地肩だけで刺していると解説する 【写真は共同】

 現在、リーグ2位につける巨人は昨季終了後、長年チームを引っ張ってきた阿部慎之助の一塁転向を決めた。そのため、2年目の小林誠司は正捕手として大きな飛躍が期待されたが、リードの甘さを指摘され、開幕直後のチームの不調の一因とされた。相川亮二、捕手に復帰した阿部の負傷離脱後も實松一成らとの併用が続き、周囲の期待に応えられずにいる。

――小林捕手は リード、ディフェンス面が課題と言われていますが、野口さんから見て一番の課題は?

 気になるのは調子の良い球種があった場合、それに偏ってしまうところです。打たれるのが怖くなって逃げています。同じ球ばかりになったら、どんなに良い球を投げていても打たれますよ。

――相手打線の1巡目、2巡目、3巡目でリードを変えていない?

 そういう傾向は見られないです。菅野(智之)と組んでいるときはうまく散らしている感じがします。同学年なので、思ったことが言えるのでしょう。他の年上の投手には遠慮して、一方通行のコミュニケーションになっている恐れがあります。自分の考えを言えないとリードが偏り始めて、とりあえず良い球を投げさせるしか選択肢がなくなります。

――年長の投手から信頼を得るために何をすればいいんでしょうか?

 プライベートも含めて、全部食らいついていくしかないです。野球選手としてだけではなく、人間としてですね。お酒の席を盛り上げて目をかけてもらってもいいと思います。むしろ、そうしなければいけません。それ以外でも、一緒の時間を過ごすことで思ったことを話せるようになるでしょう。

 僕もそうでした。古田(敦也)さんが骨折したシーズン(94年)で代わりにマスクをかぶりました。特に西村(龍次)さんは3歳年上ですが、同期入団ということでコミュニケーションがとれて、古田さんが復帰した後も西村さんが先発のときはスタメンに起用されました。西村さんが近鉄に行った後もよく話をしましたし、今でもお世話になっています。それくらいの関係になる必要があるでしょう。

――送球についてはどうでしょう?

(盗塁阻止率)4割6分も刺せているのが不思議です。地肩は強いかもしれませんが、捕手の送球としてはなっていません。まずフットワークが悪いですし、腕が横振りになっているので、シュート回転して球筋、コントロールが安定しません。本当に地肩だけです。今、刺せているから良い、というわけではありません。走者が走れなくなるのが究極です。外野手の話ですが、イチロー(マーリンズ)のところに打球が飛んだら二塁走者は三塁でストップしますよね。それと同じです。

――キャッチングなどはいかがでしょう?

 よく肝心なところで弾いている場面を見ます。ワンバウンドは力んだら絶対に止められません。柔軟性を持たせて、体に当たる瞬間に息を吐いて力を抜くことで球の勢いが死ぬんです。本当にうまかったのは田口昌徳さん(現東北楽天バッテリーコーチ)。駒澤大の伝統だそうですが、ワンバウンドの練習は徹底的にやるらしいです。

――阿部捕手が戻り、まもなく相川捕手が戻ってきますが、2人の年齢を考えると数年後には正捕手を奪わなければいけませんね。

 本当は今年から奪わなければいけませんでした。原(辰徳)監督の思いを本人が分かっていたかどうか。結局、阿部は引退まで捕手でいる気がしますし、そこまで相川がどうサポートできるか。巨人ですから、もっと若い捕手が入ってきて小林が見切られる可能性はあります。

生きた教材の姿を中日・松井雅人は見て学べ

 大胆にも若手への移行を進めているのが3位の中日だ。兼任監督2年目を迎えた谷繁が21年続けた開幕戦スタメン出場記録を自ら断ち、若手捕手に出場機会を与えている。大卒6年目の松井雅人が28試合にスタメン出場し、大きく若返った投手陣を引っ張っている。

――松井捕手についてはいかがでしょう?

 基本的には攻撃型です。今は谷繁監督の持っているものを吸収するころです。今季は開幕から出番を与えられて、ようやく本気になったと思います。吉見(一起)が復活して安定感、安心感が出てきました。エース級の投手が先発の日だけは少し気持ちの余裕ができていますね。もちろん研究と勉強は絶対必要ですが、そうそう打たれることはないと思います。

――ベンチでは谷繁監督、達川光男バッテリーコーチが見守っていますね。

 あの2人が見ていたら、成長しないわけにはいかないですよね。死ぬ気で2人の知識に食らいついていかないといけません。大変ですが、やりがいはありますね。リードはオーソドックスな気はします。谷繁監督のような裏をかくリードではありません。達川さんは投手の能力、良さを引き出すタイプでしたが、松井はこの両方をうまくミックスして勉強できる環境にいます。そんなオールマイティーな捕手になれると思います。

 また、 谷繁捕手が投手陣から得ている信頼感を、見て学ぶことも大事です。見るだけでも勉強になりますし、どのように関係を築いているのかも学ばないといけません。

――捕球面や送球面の能力はどう見ますか?

 ワンバウンドへの対応はうまいと思います。ただ、盗塁阻止率(2割5分)は低いですね。3割後半刺せたら、合格でしょう。

(後編へ続く)

(取材・文:石橋達之/スポーツナビ)

野口寿浩氏プロフィール

ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団で捕手としてプレーした野口寿浩氏 【スポーツナビ】

1971年6月24日生まれ。習志野高から1989年ドラフト外でヤクルトに入団。主に古田敦也の2番手捕手としてチームを支える。98年シーズン途中に日本ハムに移籍すると、正捕手の座をつかみオールスターにも2度出場。2003年に阪神に移籍すると2度のリーグ優勝に貢献、09年からは横浜でもプレーし、10年に現役引退。

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