内山高志に挑むジョムトーンの強さとは!? ムエタイ2冠王・大和哲也に聞いてみた

長谷川亮

ムエタイで感じたボクシング技術

現在はWBCムエタイ世界スーパーライト級王座とライオン・ファイト世界同級王座の2冠に輝く大和哲也。2011年にムエタイでジョムトーンと戦った経験がある 【長谷川亮】

 来たる5月6日、内山高志の持つプロボクシングWBA世界スーパーフェザー級王座に挑戦するジョムトーン・チューワッタナは東洋太平洋同級王座を持つだけでなく、ムエタイでも200戦以上を経験し幾多の王座を獲得してきた猛者である。近年のムエタイにおいても高い完成度を誇り天才と称されるジョムトーンの強さを、2011年10月に対戦し(ジョムトーンの判定勝ち)、現在はWBCムエタイ世界スーパーライト級王座とライオン・ファイト世界同級王座の2冠に輝く大和哲也に聞いた。

――大和選手が3年半前に対戦したジョムトーンが5月6日、内山選手の持つ世界王座に挑戦します。

 今までやったタイ人の中でも一番テクニックを感じたというか。蹴り中心でムエタイスタイルのきれいな戦い方なんですけど、ジャブの打ち方とかタイミングはボクシング的で、すごくやりにくかったイメージがあります。長い蹴りがあると思ったら速いジャブが飛んできて、あんまりタイ人のムエタイ選手って速いジャブを打たないんですけど、ジョムトーンは立て続けにパンチをまとめるのがうまいし、スピードもあってタイミングも良かった印象があります。

――たしかに大和選手との試合でもジャブが槍のように飛んできていました。

 ムエタイのリズムとボクシングのリズム、その2つを融合させているようなスタイルですごくやりにくかったです。

――ジョムトーンのボクシングの試合は見たことがありますか?

 少しだけ見たことがあるんですけどうまいですよね。僕とやった時の戦い方から、蹴りを蹴ってないだけっていう感じで。でも、構え方とか上体の使い方とかボクシングテクニックがすごいあるなって試合をしながら思ったので、(ムエタイとボクシング)どっちも行けるんだろうなっていう感じを受けました。映像を見ても目とタイミングが素晴らしくて、ボクシングはそういう距離とかタイミング、目っていうのがすごく大事じゃないですか。それをジョムトーンは兼ね備えている選手なので、今度の世界戦も興味深いです。内山選手がインファイトして入っていくと思うんですけど、そこをきっとジョムトーンは入れさせず、長いジャブを突いて距離を取りポイントを取っていくっていう戦い方になるんじゃないかと思います。

――対戦した時の印象をもう少し振り返っていただきたいのですが?

 前蹴りをキャッチした時、軸足の重さにビックリしたんです(苦笑)。試合中は集中してるからあんまりエッとか思うことはないんですけど、前蹴りをキャッチして押そうと思ったら押し返されて、一瞬戸惑いました(苦笑)。何だコレと思って。ビクともしない感じで驚きましたし、あんな細く見えてメチャクチャ体幹が強いんです。タイ人とやっていつも思うのは絶妙なタイミングと距離感があることなんですけど、それがタイ人の中でも特にジョムトーンは頭一つ二つ抜きん出ている、絶対に崩されない距離感というか自分が持っている制空圏があって、それが他の選手とは違うなっていう印象がありました。

ムエタイのトップが通用するか楽しみ

ムエタイでジョムトーンと戦った大和は「ジャブの打ち方とかタイミングはボクシング的だった」と振り返る 【長谷川亮】

――たしかにムエタイの試合を見ていると、タイ人は距離感やタイミングに非常に長けた戦い方をします。

 そうですね、前に井岡(一翔)選手がやった相手(=昨年5月に対戦し3階級制覇を阻まれたアムナット・ルエンロン)も後ろ足重心でアップライトで距離を取って、相手が入ってきたら合わせるっていう思いっきりムエタイの待ち方と戦い方で、井岡選手もやりにくそうでした。距離感とか下がり方だったり、ムエタイの選手だろうなって思いながら見てました。ジョムトーンはその戦い方もできて、かつパンチをまとめることもできるので、ムエタイのトップがボクシングのトップの選手にどう通用するのか、楽しみな一戦です。

――では先ほどもありましたが、展開としてはインファイトを狙うだろう内山選手に対しジョムトーンは距離を保持して戦うのではないかと。

 たぶんジョムトーンは内山選手を強引に倒しに行くことはないと思うんです。逆に内山選手は倒しに行くと思うので、そこをジョムトーンは挑戦者ですけどどう戦うか。インファイトになったらやっぱり内山選手が有利になると思うので、そこを距離を取ってどう戦うのかっていう展開になるんじゃないかと思います。

――ジョムトーンの強さと巧さを実体験した大和選手の話を聞き、試合がより楽しみになってきました。

 あの一戦は僕の中ですごく糧になっていて、当時ジョムトーンはWBCムエタイの世界王者でしたけど、あれから僕も修正するところを修正して今は世界2冠になって、あの経験はすごく自分に生かされていると思います。あの時の自分と今の自分がどう違うかをジョムトーンっていう相手に対して比べたいというか、“今向き合ったらどうなるんだろう?”っていう気持ちがあるので、またいつかムエタイルールでやれたらいいなと思います。すごくバランスの取れた本当に素晴らしい選手だと思うので、実現したらうれしいです。
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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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