湘南のスタジアムナビゲーター<前編> Jを支えるプロフェッショナル 第1回

隈元大吾

肥やしとなった役者時代

アウェーでゴール裏のサポーターと応援をともにするロンド(中央左よりの黄色い帽子) 【写真提供:湘南ベルマーレ】

 ところで、「他のクラブとは違う視点で差別化を図りたい」「普通じゃ面白くない」と口にするさまざまなアイデアの源は、ナレーター、あるいはそれ以前の足跡にたどれるようだ。

 中学生の頃、初めて買ってもらったラジカセでチューニングしていたら、地元の話にやけに詳しいラジオが耳に飛び込んできた。映画『波の数だけ抱きしめて』でも知られるところとなった、微弱電波を用いるミニFMだった。「そこで目覚めたんですよね。自分の考えたものを形にする楽しさを知った」。さっそく必要な機材を購入し、自ら番組の構成を考え、操作も喋りもすべて一人で行ないながら大好きな洋楽をかけた。

 ミニFMにのめり込む一方、演劇にも興味を抱き、養成所に入って芝居を学んだ。なんとか役をつかみたいとあがく日々の中で、先輩の役者や監督によく言われたことがある。

「どんなに端役でもそのカットにきちんと存在しなければいけない。何も考えずにただ言われた動きをこなそうとすると、観る人に違和感を与えてしまう。どこを切り取っても違和感なく存在することが大切だと教えられました」

 あるとき、戦隊シリーズで宇宙基地の隊員役を与えられた。せりふがある回もあれば、ない回もあった。それでも、フレームに入っていようとなかろうと、常に隊員として動き、ときに会話も交わしながら、目立ち過ぎぬようさりげなく背景に存在した。やがて隊員Aは「三村隊員」となり、レギュラーに昇格した。

 最終回の収録の際、同じシーンをともにしていたベテラン俳優に尋ねてみた。なぜ自分は途中からレギュラーになったんでしょうか。

「ロンドくんは、カメラもフレームも関係なしに主役の後ろでしっかりその場にいる隊員として演技をしていた。それを監督さんもカメラマンさんも見ていたんだよ」

 収録を終え、花束をもらった時に「役をまっとうしたんだ」と、実感がこみ上げた。

「どんなに目立たなくても、端役でも、真剣に取り組んでいれば見てくれている人は必ずいる。そこから脇役的な考えが頭のなかに常に入るようになりました」

ナレーションで学んだ大切なベース

 演劇と並行して、ラジオのDJも細々ながら続けていた。ミニFMに始まった活動は、同じくDJを志す仲間とのネットワークを広げながら、コミュニティーFMの番組を持つまでになっていた。そんな折、番組を通じてナレーションという仕事を初めて知り、誘いを受けた。ボイスサンプルを作ったわずか2週間後に民放キー局の深夜番組のレギュラーが決まるなど瞬く間に事は運び、以降ナレーターに専念することになった。

「演劇やラジオをやっていたおかげで、表現する下地みたいなものがあった」と語る。

「人に喜んでもらうというベースがナレーションにも生きました。独りよがりになってはいけないし、演出家やディレクターの要求にきちんと応えながら脇役としてメインをどう立たせるか。周りを見ながらバランスをとり、良いパスを出すという、僕の役割は常にバランサーなんです」

 歩んできた道のりはさらに、スタジアムナビゲーターの仕事にも通じていく。

「選手のみんなに奮い立ってもらいたいし、サポーターの人たちにはとにかく楽しんでもらいたい。勝った負けたに関係なく、相手サポーターも含めて、また次も来たいなと思ってもらえるような空間にしたい。その中で自分にできることを常に考えて、思いつくかぎり企画を提案しました」

 湘南ではサブの立場だったロンドが、自ら空間をつくりあげる楽しさを実感するのは、JFLのガイナーレ鳥取でメインナビゲーターを務めた07年からの4年間にある。きっかけは、スタジアムの演出に携わった当初からともにアイデアを絞り、その後、鳥取のGMとなった元湘南スタッフの竹鼻快さん(現福島ユナイテッドGM)からの誘いだった。

<後編に続く>

(協力:Jリーグ)

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著者プロフィール

湘南ベルマーレを中心に取材・執筆。クラブオフィシャルの刊行物をはじめ、サッカー専門誌や一般誌等に幅広く寄稿。

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