湘南のスタジアムナビゲーター<前編> Jを支えるプロフェッショナル 第1回

隈元大吾

トレードマークは黄色い帽子

03年より湘南のスタジアムナビゲーターを務める三村ロンド 【写真提供:湘南ベルマーレ】

 この仕事に携わるようになって2年目か3年目か、正確な時期は定かでない。「ロンド、これ知ってる?」湘南ベルマーレのフロントスタッフが手にしていたのは、クラブのマスコットキャラクターであるキングベルI世の王冠を模した黄色い帽子だった。かつてベルマーレ平塚時代に限定発売されたグッズで、スタッフの私物だという。試しにかぶってみると、子どもたちが楽しげに駆け寄ってくる。似合う似合うと周囲のうけも良い。「あ、これだ」心地良い音を立てて鍵が回るように、自身のトレードマークは決まった。

 三村ロンドが湘南のスタジアムナビゲーターに携わるようになったのは、ナレーターの仕事を始めて5年目、2003年のことだった。シーズンを前に、当時同じ事務所の田子千尋さんがオーディションを勝ち取り、ロンドは先輩のサポートとして加わった。

「ベルマーレからオファーをされていたわけではなかったんですけれど、僕も若手だったし、先輩の一挙手一投足を見て学べという当時の事務所の方針もありました。また僕自身、スタジアムへサッカーを観に行ったりしていたので携われるうれしさもあった。なかば一緒にくっついて行く形で、ベルマーレとのお付き合いはスタートしました」

 ナレーションとは異なる未知の世界、現場では田子さんが気持ち良くナビゲートできるように気を配り、ほかのスタジアムではどのような演出がなされているのか参考にすべく、アウェーにも精力的に足を運んだ。各地のスタジアムナビゲーターと知り合い、さまざまなことを吸収する傍らで、湘南サポーターにもホームの演出などについて直接意見を求めた。もちろんチームの戦いを見届け、次のホームゲームに備えることにも抜かりはない。クラブに意識を傾けるロンドの姿は、クラブやサポーターに次第に届いていった。黄色い帽子をフロントスタッフから譲り受けたのも、信頼の表れだったろう。

「他チームとは違うプラスアルファを」

 アウェーでゴール裏のサポーターと応援をともにするようになったのは1年目の03年、サガン鳥栖戦がきっかけだった。いつものようにスタンドへ足を運びあいさつをしている間にキックオフを迎えてしまい、そのまま応援の輪に加わった。「一緒に歌い始めたらものすごく楽しくて、サッカーを観ることの原点に立ち返りました。試合にも勝ち、みんなで喜びを分かち合うあの空間が忘れられなくて、次のアウェーゲームからずっとゴール裏で観るようになった。だから途中からはもうほとんどサポーターです」。そう言って思わず笑うが、記者席では得られないゴール裏からの景色は、ホームゲームの演出のための肥やしとなった。

「他チームとは違うプラスアルファを考えて形にしていきたい」とロンドは言う。

「ピッチ上では選手たちが戦う90分の本編があるので、そこに至るまでにどれだけ盛り上げられるかが僕らの役目だと思っています。田子さんは格好良くナビゲートする立場、僕は脇役として田子さんをフォローしながら、常にみんなのいじられ役として、いかに喜んでもらえるかを自分なりに考えた。そうして黄色い帽子とともに、端くれとして徐々に自分の役割を作っていきました」

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著者プロフィール

湘南ベルマーレを中心に取材・執筆。クラブオフィシャルの刊行物をはじめ、サッカー専門誌や一般誌等に幅広く寄稿。

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