タフさを手に入れ今季に臨む市川華菜 マイルリレー参加で取り戻した笑顔
チームに癒され精神的にも回復
昨年のアジア大会では4継リレーにも出場したが、マイルリレーにも参加し銀メダルを獲得。精神的に「癒された」ことで、調子が上向いてきた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
「52秒台のラップが出たことで瀧谷先生から、『200メートルの予選から30分しかないが、400メートルに出てくれないか。組で1番になれば正式にナショナルチーム入りさせられるから』と言われ、実際に走ったら組で1番になったんです。それで香港や中国の3カ国交流陸上にも、初めてマイルチームで遠征しました。マイルのメンバーはゆっくりしている人が多いのですごくホッとするというか。そういう雰囲気が楽しくて、この人たちと一緒に走りたいという気持ちがさらに強くなったんです」
結局、アジア大会(韓国・仁川)も日本選手権の200メートルで2位になったことで4継リレーにも出場したが、マイルでも3走を務め、日本代表6年ぶりの3分30秒台となる3分30秒80での銀メダル獲得に貢献した。
「マイルをやることで精神的に癒されたというのはありますね。速く走れなくてどうしていいか分からない時に、マイルのナショナルチームに呼んでもらえて……。瀧谷先生にも『焦らなくていいから自分のペースで建て直してくれ』と言われていろいろなチャンスをもらえました。もしそういうことがなければ、気持ち的にどうなっていたんだろうかと思いますね。だから今考えると、ケガをしてからの2年間は本当に土台作りをした時期だったと思います」
タフなスケジュールも笑顔の「葛藤中」
200メートルをメーンにしているが、4継でもマイルでも「両種目出たい」と話す。葛藤があるとは言いながらも、それは調子が良い印でもある 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
「あの国体も400メート決勝までの4日間で、100メートル3本とリレーを2本、400メートル予選を1本走った後だったから、決勝のラスト100メートルは乳酸が溜まったのが分かるくらいだったので、それがなかったらどのくらい(タイムが)出たんだろうと思いましたね。400メートルを走ったのは3大会だけだし、いつもほかの種目とかぶって時間がない中で走っているので、今の自分が本当はどのくらいのタイムで走れるかは気になっていますね。でもやっぱり自分が一番好きなのは200メートルだし、100メートルをやりたいという気持ちもまた芽生えてきています。どちらかに偏るのもまずいと思うし……。本当に今は葛藤中なんです(笑)」
11年に自分の専門種目ではないと思っていた100メートルで記録が一気に伸びた時期には、100メートルのレースが多くなってしまいケガをした。その時は本当に100メートルの走り方が分からなくなってしまい、「100メートルは好きじゃない」とさえ思った。しかし、「昨年の国体で久しぶりに100メートルを思い切り走れるというのを経験し、やっと100メートルも楽しく走れるという感じになってきたんです。でも私が一番好きで、世界へ出たいと思っているのは200メートル。だから、100メートに出たり400メートルに出たりしながらというのが自分のスタイルなのかなと分かってきました」
そういう思いを強くしたのは、昨年のアジア大会だ。男子では200メートルをメーンにしている藤光謙司(ゼンリン)と飯塚翔太(ミズノ)がマイルリレーの決勝で走って優勝した。また男子100メートルで3位になった高瀬慧(富士通)も、100メートルから400メートルまで走れるマルチスプリンターを目標にしている。そんな姿も見たからこそ、市川もリオデジャネイロ五輪には、昨年同様に4継とマイルの両種目で出たいという気持ちが強くなっている。
「あれでそういう気持ちにとてもなりましたね。400メートルだけ速くても、海外の選手と比べればスピードが足りないし。前半から突っ込める人はショートスプリントの動きができなければリレーで追いつくこともできないので。女子でも今は100メートルから400メートルまでできる青山聖佳さん(大阪成蹊大)も出てきているので、その面では何かいい感じかなと思いますね」
今季の自分を楽しみにしている
リオ五輪を考えると、今年は重要な一年になる。「ロンドン後、しっかり休んだから今季は頑張る」と笑顔を見せる市川 【折山淑美】
「リレーの場合は1人だけではなく、4人がいい状態でレースを迎えなければいけないと思います。100メートルでは最低でも(全員が)11秒4台を出さなければいけないし、200メートルなら23秒台前半は必要。そのためにも今年は200メートルで、世界選手権の参加標準記録の23秒20を出したいですね。後半は持久系をずっとやってきたのでいけると思うから、まずは前半で離されないで突っ込んでいけるスピードが重要だと思います。100メートルでは今、スターティングブロックを使うよりスタンディングスタートの方が速いくらいなんで、まずはスタートを磨いて、最低でも11秒5を切るくらいでないと、200メートルでも記録を狙えないと思っています。そういう走りができるようになれば、マイルでももっと走れるようになって、日本記録更新にも貢献できると思います」
ケガをしてからはトレーナーに一から指導してもらい、体の使い方もうまくなってきて、軽いケガなら自分で直せるようにもなったと話す。また多種目に挑戦したことで精神的にもタフになれた。
そんな状況になって初めて迎えるシーズンだからこそ、市川は今季を楽しみにしているのだ。
「ロンドン五輪のあとの2年間は大きな舞台にも出られなくてしっかり休ませてもらっていますから、今季はこれまで以上に頑張らなければと思っています」と、市川は明るく笑う。