“キックのカリスマ”立嶋父子の夢の序章 父・篤史は黒星も息子・挑己はプロ初勝利

スポーツナビ

プロ2戦目で判定勝ち

43歳・立嶋篤史、息子・挑己との共演が実現した 【田栗かおる】

 1990年代のボクシング界で“ナニワのジョー”としてカリスマ的人気を誇った辰吉丈一郎の次男・寿以輝が2RKO勝ちというプロデビューを果たした3日後――辰吉と同じ世代に“キックボクシングのカリスマ”として一世を風靡した立嶋篤史が息子・挑己と同じリングで戦う父子共演が実現した。

 父子が同日にマッチメイクされたのは、4月19日に東京・ディファ有明で行われたREBELS×WPMF合同興行「WPMF JAPAN × REBELS.35」。まずは息子・挑己がオープニングファイト第1試合で松永誠剛と対戦した。ことし1月にプロデビューし、結果はドロー。今回がプロ2戦目でプロ初勝利を目指していた。第4試合に出場する父・篤史もセコンドで激を飛ばす中、右ミドル、右ハイとキックを主体に攻める。2Rや3Rにはパンチのラッシュに受け身になり、鼻からの出血もあったが、父親譲りの右ローなど3Rを通してキレのある蹴りで主導権を握った。判定は2−0(29−29、29−28、30−29)で挑己に軍配が上がり、プロ初勝利を飾った。

「父と一緒のリングに上がることは意識せずに自分の試合だけを意識していました。自分の試合だけでも不安だったけど、リングに上がる前に“やるしかない”と腹をくくりました」と試合前の心境を語った挑己。プロ初勝利には「結果が出てうれしい」と顔をほころばせ、父親の試合の準備に入った。

かっこいいことばかりじゃない現実

 息子の勝利をセコンドから見つめ、「うれしかった。でも、これで僕がケチつけちゃいけないなって気持ちが入りました」という篤史は元M−1スーパーフェザー級王者・長崎秀哉と対戦した。しかし、1R序盤に右ヒジをもらい、パンチのラッシュを浴びる。右目じりを切り、ドクターチェックが2度入るなど劣勢に。しかし、右ロー、右ミドルを出して、アグレッシブに攻める姿勢は崩さなかった

 3Rゴング前にはコーナー下でセコンド業務をしている挑己に「見とけよ」と声をかけてから戦いに臨んだ。左フックなどパンチをもらう場面もありながら最後まであきらめず右ミドル、右ローで反撃する姿に、会場からは “タテシマ”コールが飛ぶ。3Rが終了し、結果は判定0−3(28−30、28−30、28−30)で判定負け。篤史は控え室に戻るときに「すまん」と挑己に一言。挑己はお尻をポンとたたいて父の健闘をたたえた。

「わざと負けたわけではないし、わざと痛い思いをしたわけでもない。息子がキックボクシングを選んでくれた以上はかっこいいことばかりではないし、痛いこともつらいこともある。無様な姿を見せるのも、父親の仕事のひとつ」とは右まぶたをカットし、流血の跡が痛々しい篤史の弁。3R前に息子に声をかけたのも、キックボクシングの道に息子が足を踏み入れた以上、すべての現実を見せたかったから。プロ80戦以上のキャリアを誇る父からプロ2戦目の子へのメッセージだった。

いつかは同日のタイトルマッチ――

 日本スポーツ界では恐らく初と思われる親子共演は息子がプロ初勝利、父は通算38敗目の黒星という結果に終わった。高校1年生の16歳・挑己は「父親と比べられるとは思う。まだ自分の色はないけど、これからがむしゃらにやって自分の色を出していきたい」と決意を語る。「評価は自分からつかみにいくもの。人から評価されるのを待っているのではなくて自分から頑張って、それでも評価されなかったらもっともっと頑張って、注目されるように頑張る」と挑己が小さいころから教えてきたという父・篤史の人生訓を今後どう体言していくか。

 一方、かつての“カリスマ”も43歳。現在は負けも込んでいるが、あくまでも現役にこだわる篤史。キックボクシングで有名になる――かつて中学を卒業しばかりの少年は強い決意を胸にタイに渡った。あれから30年近く経った今も、その思いは1ミリたりとも変わっていない。

 取材の最後に篤史に「親子そろって勝ち名乗りを挙げたいですね」と質問したところ、間髪いれず、「いやいやそれじゃ小さいでしょ。タイトルマッチみたいな大きな試合を2人そろってやるとか、そこを目指さないといけないんじゃないですか? まだまだもっともっと頑張りますよ」。

 前を見据える立嶋父子のストーリーはまだ序章に過ぎない。
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