ついに訪れたクロップ監督の退陣発表 成長を求められるドルトムントと香川真司
香川にとっても影響は少なくない
香川にとっても恩師クロップの退陣がもたらす影響は少なくはない 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】
トゥヘルサッカーの基本は統率の取れた守備と積極的なプレス。とくに守備に入る最初のポジショニングには厳しく、ほんの少しのズレも許さない。どこから守備をスタートさせ、どこに相手をおびき寄せ、どこでボールを奪うのか。一般的にプレスに行く場面でよく見られるミスが、奪いに行ったままそこに残ってしまい、後ろの選手が数的不利の状況にさらされるというもの。ボールを後ろに戻されたらどこに戻るのか、かいくぐられたらどうすればいいのか。そうした次善策にも入念な準備がされる。
攻撃ではリズミカルでシンプルなパス回しと、思い切りとタイミングの良いフリーランニングが鍵になる。マインツ時代はサイドからのクロスボールにバリエーションが多かったのも特徴だった。今季、両サイドを使った攻撃がいまひとつ機能していないドルトムントにとって、各選手の位置関係、走り込むコース、パスコースの調整はサイドアタックのクオリティーをハイチューン化するはずだ。そして外にバリエーションができれば、自分たちの強みである中央からの崩しにも好影響をもたらす。
もちろん公式発表があるまでは、すべてが憶測の中での話。信ぴょう性が低いわけではないが、新監督としてトゥヘルが来るのか、あるいは他の誰かが来るのか、現時点ではまだ分からない。いずれにしても香川にとって、恩師クロップの退陣がもたらす影響は少なくはないだろう。クロップに才能を見いだされ、リーグ2連覇の立役者となり、新しい時代のトップ下としての地位を築き上げた。香川の成功があったから、若くタレント性の豊かな選手を獲得し、チームで育て上げるというクラブ哲学が確立したと言える。ミスを恐れずに自分のプレーを貫けたのもクロップが後ろで支えてくれたからだった。その大きな理解者がクラブを去る。
今季の残りを恩返しの場に
新しいチャレンジは自身をさらに成長させるための大事なプロセス。サッカーでは考えることが大切だ。しかし考えてからのプレーでは、どうしても一歩遅れてしまう。アクションを起こすその瞬間には、考えなくてもすべき動きができるようにならなければならない。戦術はそのためのサポート材料であり、戦術を順守するために動きがまひするのでは本末転倒になってしまう。チーム戦術・戦略が変わっても、サッカーの基本理念は変わりはしない。一気にすべてを変えようとするとひずみが出る。そう考えると、自分にできること、チームのためにすべきことを整理し直す、いい機会とも捉えられる。
クロップは退陣を決断した理由として、このように語っている。
「大事だったのは今シーズンどうこうではなく、今後どうなるのか。ドルトムントには変化が必要だと思った。自分がここに残ってそれができるだろうか。多くが同じようになってしまう。特に大きな問題は、自分がここにいる限り、過去との比較がつきまとうことだ。サッカーは変わるし、成長が必要になる。ここにはファンタスティックなベースがあるんだ。タレント性の豊かな素晴らしい選手がいる。クラブの成長をブロックしたくなかった。来季以降のプランをしっかりと行うためには、今決断をするのが正しいと思った」
まず今季の残り試合で吹っ切れたサッカーを展開し、可能な限り上を目指す。ヨーロッパリーグ出場圏も可能性がないわけではない。そして来季、新監督とともにバージョンアップしたサッカーでブンデスリーガを席巻する。それがドルトムント、そして香川にとって、7年間誰にも負けない熱量でクラブを愛し、支え、吠え続けたクロップへの何よりの恩返しになるはずだ。