ラグビー日本代表、「ペップ流」で進化 エディーHCがバイエルンで得たこと

斉藤健仁

昨季は「選手たちに優しくなってしまった」

練習を見守るジョーンズHC(左)と、13人制ラグビー出身のマックス氏 【斉藤健仁】

 ラグビーの世界的名将が、サッカーの世界的な名将に会い、なぜ恥ずかしい思いをしたのか――、ジョーンズHCはいう。

「2014年シーズンを振り返ってみると、フィールド上でのコーチングが足りなかった。選手たちに対して、若干、優しくなってしまった。勝利が続いたが、それが必ずしも良いことではなかったと思います。チームに十分な変化をもたらすことができず残念でした」

 つまり、テストマッチで連勝していたことで、変化を恐れたことが、チームに新たな成長をもたらすことを躊躇(ちゅうちょ)させ、昨年11月のマオリ・オールブラックスやグルジア代表戦の敗戦につながってしまったというわけだ。

「強度をもっと高くすることで、もっと選手が学べる」

負荷をかけた状態で、ブレイクダウンの練習に臨む日本代表 【斉藤健仁】

 そこで、この4月からジョーンズHCはペップの影響を受けて、練習の仕方、方法にサッカーでいう「戦術的ピリオダイゼーション」のアイデアを導入することを決めていた。
「戦術的ピリオダイゼーションはあらゆる練習を試合の中で戦術的に戦うための準備として行います。すべての要素の練習を戦術に重点に置いてプランする。練習の部分でさらに改善、向上ができると思いました」(ジョーンズHC)

 実際に2日目の練習では、FWの選手たちがフィールドに出る前に、フィジカルトレーニングを行い、試合に近づけるための負荷を与えていた。そしてブレイクダウン(密集でのボール争奪戦)の練習でも25人ほどをポジションに関係なく3つのグループに分けて、近場の攻防、2対2の接点でのボールの争奪、ラックにおける2人目と3人目の動きの確認などを行った。しかも、全員がコンタクトスーツを着けて、本番さながらの激しさだった。

「ペップ(=グアルディオラ)の練習で参考にしたのは、トレーニングの手法やオーガナイズといったアプローチだけです。スモールサイド(少人数)ゲームをたくさんやることです。そして強度をもっと高くすることで、もっと選手が学べることができます」(ジョーンズHC)。
 この言葉の通り実践し、接点の練習後には、フィールドを60m×40mほどに設定し、12対12のアタック&ディフェンスを4分間に区切って3回ほど行う徹底ぶり。グアルディオラ監督の練習でも有名な「スモールゲーム」に通ずる、というわけだ。

練習に「戦術的な負荷」を加えていく

コーチ陣の指示と、選手の自主性の両方を高めていく 【斉藤健仁】

 ただ、ジョーンズHCは、昨シーズンは「ラグビーではコーチがハーフタイムしか指示できない」と、試合が終わった直後にすぐミーティングを行うなどリーダーグループを軸とした選手たちに自ら考えさせることも促していた。その点において、ジョーンズHCは「コーチングも選手たちに自主性をもたらすことも足りなかった」と反省し、「両方のバランスが大事です」と語気を強めた。

 ワールドカップ本番まで、日本代表は120日ほど合宿を敢行する。また始まったばかりだが、今後も“戦術的な負荷”をさらに加えていき、「サッカーはサッカーをすることでうまくなる」という言葉同様、さしずめ「ラグビーはラグビーをすることでうまくなる」ことを実践するだろう。果たして、エディー・ジャパンは、ペップ流の練習でさらなる進化を遂げることができるか。

 SH田中史朗(パナソニック)らスーパーラグビーに挑戦している6人、そしてHO堀江翔太(パナソニック)ら負傷している選手4人が戻ってきても、ポジションがないような状況を作ることが、ワールドカップに向けてよりチーム力を向上させることにつながるはずだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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