予選で見えた手倉森サッカーの方向と強み 上積みに必要な所属クラブでの出場機会

川端暁彦

この世代はアジアでの勝利経験が乏しい

チーム結成以来、アジアでも「強い」相手との対戦は少なく、勝てるチームになったかは見えていない 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 今回の突破を受けてチームのターゲットは10カ月後、来年1月のカタールで行われるAFC U−23選手権(リオ五輪アジア最終予選)に絞られることとなった。果たして、日本は勝ち切れるだろうか。

「正直に言えば、そんなに(手応えは)ないですね。強いチームに通用するかと言われれば」

 少々不安になる言葉を漏らしたのは中盤の主軸である大島だ。チームとしての形は積み上がってきているが、果たしてこれでアジアを勝ち抜けるかは別問題。準々決勝で敗退した2年半前のAFC U−19選手権、半年前のアジア競技大会を知るだけに、アジアの厳しさは肌感覚として分かっている。

「別に負けたくはないんですけれど、負けて自分たちの足りない部分とかをもっと思い知るとか、そういうことをやりたいなというのはあります」と続けた言葉の裏にあるのは、ある種の危機感だろう。チーム結成以来、この手倉森ジャパンは対アジアでの経験値を積み上げてきたが、明確に「強い」と言えるチームとの国際試合の経験は、昨年のアジア競技大会の韓国戦くらいのもの。チームとしての戦術がこなれてきた感覚はあっても、果たして勝てるチームになったかは見えていない。そもそも、この世代の選手たちはアジアでの勝利経験が乏しいという問題もある。

所属チームでポジションをもぎ取れ!

予選で活躍を見せた中島だが、所属クラブでは出場機会が少ない。さらなる成長のために、ポジションをつかめるか 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 では残り10カ月、何を上積みできるのか。何度かある合宿でチームとしての練度を上げるのはもちろんだが、やはり個々の意識に懸かっている部分は大きい。主将の遠藤は「なかなか難しいとは思いますけれど、(チームに戻っても)常に最終予選があるということを意識しながらプレーすることが大事だと思います」と言い切る。一方、所属チーム(アルビレックス新潟)で出場機会の減っているDF松原健は「やっぱり一番成長できるのはJリーグで試合に出ることだと思いますし、そこはみんなが同じ考え方だと思う」と断言。「練習から100%やり切ることで使ってもらえるようになる」と闘志を燃やしていた。

 9番を預かる鈴木武蔵にしても、10番を背負う中島翔哉にしても、あるいは海外組の久保裕也にしても、所属クラブでの出場機会が絶対的に不足している。それは彼らの力不足。日本サッカーの未来を背負う選手たちが、それぞれのチームでポジションを先輩たちからもぎ取り、Jリーグのピッチで経験を積み上げること。それができないようでは未来もないし、五輪代表チームとしての力も底上げできはしないだろう。

 加えて言うなら、明治大学のDF室屋成のような大学サッカーの有力選手たちも、武藤嘉紀や長友佑都のように部活をやめろというのはハードルが高いにしても、特別指定選手としてJリーグへ積極的にチャレンジしてほしい。

 予選の戦いの中でチームとしての強みも見えたし、手倉森監督が目指すサッカーのベクトルも見えた。だが、これだけではアジアを勝ち抜くには不十分で、ましてや本大会でのメダルなど語れるレベルにはない。ベトナム戦後、中島は「このままでは世界に勝てない」と言った。

 それは、「このままのつもりはない」という意志の裏返しだと思っている。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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