ファンの善意で立ち直った地域密着クラブ ハンドボール・琉球コラソンのストーリー

河合麗子

雇用とスポンサー収入による相乗効果

運営会社の代表取締役に就いた水野裕矢。来シーズンからは選手を引退し、社長業に専念する予定だ 【写真提供:琉球コラソン】

 水野は、日本トップリーグ連携機構()のGM研修会に参加し、サッカーのなでしこリーグやフットサルのFリーグ、バレーボールのVリーグ、バスケットボールのリンク栃木など、他競技の経営ノウハウを学んだ。

 そして11年から那覇市の商工会議所青年部に入り、県内の経営者たちとの人脈を広げ、地道な営業活動を始めた。その年のスポンサーは15社あまりにとどまったが、県内の不動産会社社長の理解を得てメーンスポンサーを獲得。また、その不動産会社は選手1人の雇用先にもなってくれた。選手たちにとってスポンサーはもちろん、競技を続けながらでも雇用してくれる企業の存在は大変ありがたいものである。

 営業活動は翌年から加速する。前年まではアポさえ取れなかった企業と少しずつ面会できるようになった。12年と13年には選手2人を運営会社に入れ、スポンサーリストを整理し営業活動を強化した。12年に琉球新報、13年に沖縄タイムスという県内の新聞2誌がメディアスポンサーになり、この他にも県内の大手企業のスポンサーが増え周囲の信用度が増した。

 スポンサー企業は12年に40社、13年に70社、14年には100社を超えた。選手を雇用する企業も増え、その企業がスポンサー企業になるという相乗効果も生まれていた。

 現在チームは、選手の9割の雇用先を斡旋(あっせん)している。水野は選手を獲得する際、競技力と並行して社会人としての人間性を重視するという。その選手が社会人として企業に紹介できる人物に値するかを見定めるためである。各企業で働く選手一人一人がチームの顔であり、それがスポンサー収入に直結するのだ。

日本トップリーグ連携機構……ボールゲーム9競技の日本最高峰となる12リーグが連携し、競技力向上と運営の活性化を目指した活動を行う団体

集客ノウハウと地元選手の回帰

レギュラーシーズンの最優秀選手賞・得点王を獲得した棚原良(写真)らの活躍もありプレーオフに進出。 【写真:アフロスポーツ】

 琉球コラソンは、チケット収入についても地道な取り組みを行った。

 沖縄県ハンドボール協会の協力を得て、協会に登録している人には300〜500円の割引制度を作った。現在、県ハンドボール協会に登録している人は約5000人。無料チケットをばらまくチームがある一方、この割引制度は、競技に関心がある人と日本トップの試合を直結させるものと言え、確実な収入源となった。

 また、チケット販売を運営会社と選手から以外は、コンビニエンスストアの「ファミリーマート」に一本化して購入方法を分かりやすくした。さらに、地元のテレビ局や新聞とコミュニケーションを取りチームの情勢を伝え続けた。そのことが集客を伸ばした大きな要因と言える。

 そして12年、当時日本代表で11−12年シーズンには湧永製薬のキャプテンを務めた東長濱秀作がチームに加入。
「プレーオフの舞台を沖縄の仲間と見たい」と話す大型選手の加入は県内の関心を高め、チームは初めて上位争いを展開した。惜しくもプレーオフ進出は逃したが、この年の1試合平均観客数は1560人となり、前季(731人)の倍以上を集めることとなった。

 その後、出場機会を求め大同特殊鋼から棚原良らが加入し、さらにチーム力を伸ばす。そして今シーズンは、棚原がレギュラーシーズンの最優秀選手賞・得点王に輝く活躍を見せるなど、チームとして初めてプレーオフに進出。その中でホーム最終戦には、3150人もの観客を集めるリーグ記録を作ったのだ。

「僕らのようなチームが増えることが大事」

ファンに胴上げされる水野。日本のハンドボール界が強くなるには「僕らのようなチームが増えることが大事」と話す 【写真提供:琉球コラソン】

 これまで琉球コラソンの社長兼選手を務めていた水野は、今シーズンで現役引退を決めた。これからはチームの運営、社長業に専念するという。実際、3000人を超えたホーム最終戦は、選手をしながら運営できるほどの規模ではなくなっていた。

 今季プレーオフ進出を果たしたチームだが、レギュラーシーズンの試合は取りこぼしもあった。戦力・経営共にまだ荒削りな部分があるチームは、課題を修正して沖縄からの日本一を目指していくという。

 未だマイナースポーツと言われる男子ハンドボール界。この現状について水野はこう語る。「僕らのようなチームが増えることが大事なのではないか」と。

 水野は続ける。
「おそらく(プロ野球)日本ハムの大谷翔平選手がハンドボールをやっていればハンド界でも活躍すると思います。今、スポーツの素質ある子どもたちがどれだけハンドを選んでくれるでしょうか。ハンドに触れる機会を増やし、やりたいと思わせる機会を増やさなければ、日本が世界と戦える日は絶対に来ないと思います」

 ハンドボール選手を目指す子どもたちを増やすこと――「底辺拡大」はハンドボール界の大きな課題と言える。2020年には東京五輪を控えるが、おそらく出場するだけでは他の競技に埋没し注目を集めることはないだろう。 

 まずは地域のクラブチームが競技を盛り上げ、地域に根ざしたチーム作りをしていく。地域に応援される国内トップレベルの選手たちを子どもたちが身近に感じることが、ハンドボール選手を夢見る子どもを増やすことにつながるはずである。
 琉球コラソンのような地域密着クラブの成功例を、他の地域でも増やしていくことができれば、将来それが日本ハンドボール界の成長につながっていくのではないだろうか。

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著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー。これまでニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、スポーツ・教育・経済・観光などをテーマに九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う。2016年4月の熊本地震では益城町に住む両親が被災した。

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