ベガルタ仙台、もう一度被災地のために 復興のシンボルとして戦う覚悟と決意

小林健志

超満員となったホームでの開幕戦

今季のチーム始動日、渡邉監督(左)と選手たちは被災地を訪問。クラブとしての決意を新たにした 【写真は共同】

 1月20日のチーム始動日。本来であれば練習を行うはずであるが、渡邉監督は選手たちとともに名取市閖上(ゆりあげ)を訪問。被災地の現状を全選手・スタッフに見せた。今シーズン仙台は12名の選手が入れ替わった。震災後最初の試合で劇的ゴールを決めた太田吉彰(現ジュビロ磐田)、震災後のチームをけん引し続けた角田誠(現川崎フロンターレ)、赤嶺真吾(現ガンバ大阪)、試合以外でも復興支援活動に積極的に取り組んだ柳沢敦(現鹿島アントラーズコーチ)らは昨年チームを去った。震災後に加入した選手が非常に多くなった今、もう一度被災地を訪れ、11年3月11日に何が起こり、今どのような状況であるのか、当時を知らない選手・スタッフに見せる必要があったのだ。

 こうして始動したチームはキャンプを経てホーム開幕戦を迎えた。対戦相手はモンテディオ山形。4年ぶりのみちのくダービー。チケット発売日にほぼ完売となったこともあり、19375人もの観客で超満員となった。

 試合前、仙台の西川善久社長のあいさつでも改めて「被災地のため」という言葉が聞かれた。そして震災直後に誕生し、もうすぐ4歳となる瀬川誠仙台大派遣コーチの長男がフェアプレーフラッグベアラーを務めた。そして選手入場後、改めて被害に遭われた方々に哀悼の意を表し、黙とうが行われた。もう一度被災地のために戦う。クラブとしての決意の表れが試合前のイベントの端々に感じられた。

震災を決して忘れない

開幕戦は途中出場したウィルソン(左から2人目)の2ゴールで山形に快勝。幸先の良いスタートを切った 【写真は共同】

 試合は仙台がゲームを優勢に運びながら、野沢拓也の退場により苦しいゲームとなったが、負傷明けで途中出場となったウイルソンが2ゴールの活躍を見せ、2−0と快勝。仙台サポーターは歓喜に沸いた。震災直後スタメン出場していた選手は菅井直樹、梁勇基、富田晋伍、鎌田次郎の4人だけとなったが、鎌田は守備を見事に統率し無失点勝利に貢献。菅井、梁、富田はいずれも得点に絡む活躍ぶりだった。

 渡邉監督は試合前ミーティングで「われわれは復興のシンボルとしてこれからも戦い続けなければいけない。それをプレーで表現する絶好の機会だ」と話したという。「試合の前には黙とうもありましたし、われわれはあの日を忘れずサッカーを通して被災者の方を勇気づけたい、元気づけたいという活動はこれからも続けていかなければならないと思います」と改めて被災地のために戦う決意を試合後の会見で語った。

 渡邉監督は「昨年(3月8日に)鹿島に敗れたことを考えれば、今日はいくらかでも被災地の方々が少しでも勇気と元気を持ってくれればと思っています。しかしこの1試合で何かが変わるわけではありません。まだまだ道半ばの復興に対して、われわれはピッチ外での活動も通して復興のシンボルとして進んでいきたいと思います」と語る。ピッチ内では全力で戦う姿を見せ、ピッチ外でも被災地復興のための活動を進めていく考えだ。

 15年3月11日14時46分。チームは今年も被災地を訪れるという。震災を決して忘れない。そしてもう一度被災地のため、全力で戦うシーズンが幕を開けた。

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著者プロフィール

1976年、静岡県静岡市清水区生まれ。大学進学で宮城県仙台市に引っ越したのがきっかけでベガルタ仙台と出会い、2006年よりフリーライターとして活動。各種媒体でベガルタ仙台についての情報発信をするほか、育成年代の取材も精力的に行っている

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