欧州代表戦は今後への課題発見を期待 若手選手、監督・コーチ陣の経験の場に

永塚和志

スター不在のポジションをどう埋める?

今回の欧州代表戦は指導経験の少ない小久保監督(右)、稲葉打撃コーチらにとっても貴重な経験を積む場になりそうだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 他方で、今回の2試合のエキシビションだけでどうこうとはならないかもしれないが、それでも日本野球に危機感を促す機会になればとも思う。というのも近年、とりわけプロ野球ではスター選手の生まれるポジションとそうでないポジションが明確に分かれてきているからだ。「そうでないポジション」というのは一塁、三塁、そして捕手である。一昔前までは王貞治氏、長嶋茂雄氏というスーパースターの影響で一塁、三塁を選択する選手は多く、それだけスターも生まれやすい環境にあった。ところが今の世代はそうではない。外国人選手に頼っていることもあって、現在のプロ野球でそれらのポジションで本当の意味でのスターはほとんどいない。

 捕手も同様だ。現在の野球は捕手にかかる守備的負担があまりに大きくなり、その分打撃力のある捕手が育たなくなってしまった。WBCを見ても第1回大会の里崎智也(元千葉ロッテ)、同2回大会の城島健司(元福岡ダイエー、マリナーズなど)、同3回大会の阿部慎之助(巨人)と打撃力のある選手が正捕手を担ってきたが、今回のメンツは申し訳ないが格が落ちると言わざるをえない。言うまでもなく捕手も野手の一人であり、上述した攻撃力について関連付けるならば捕手も攻撃の一端を担う重要な打者なのだから、憂慮すべきことである。

 また、抑え投手の欠如も気になる。近年のプロ野球では一昔前までの佐々木主浩(元横浜、マリナーズなど)のような絶対的な抑え投手が減ってきている(ここも近年外国人に頼ることが多い)。今回の抑え候補の牧田和久(埼玉西武)や西野勇士(ロッテ)、澤村拓一(巨人)らは元は先発投手で本当の意味での抑えの資質という点ではやや不安だ。

監督、コーチ陣が経験を積む場にも

 こういったポジションによるタレントの欠乏は一朝一夕で改善されるものではない。五輪やWBCで頂点を狙うならば、日本の野球界全体で考えていくべき課題だ。侍ジャパンが常設化されたことでアンダーカテゴリーとの連携が一気に加速する可能性がある。今回の対欧州代表の試合など、数少ない実戦を侍ジャパンとして経験していくことで上述したような課題を浮き彫りにし、改善していくことによって長期的スパンで同チームを安定して強いものにできるはずだ。

 また、1戦の重みが普段のシーズンから格段に上がる短期決戦の国際大会において、コーチ陣によるベンチワークの重要性も当然増す。従来通り日本は投手を中心とし、攻撃面ではつなぐことを重視した試合をしていくのであろうが、こうした戦い方は、換言すれば接戦を制して勝っていくことを想定したものであり、となれば一つ一つのプレーの選択や選手交代などが大事になってくる。現在の侍ジャパンのコーチ陣を見ると、コーチ経験がほとんどないメンツばかり。どの競技でも国を背負った戦いでは見る者の想像を絶する重圧がかかるはず。その中でプレーする選手や指示を与えるコーチ陣は適切な判断を下さねばならない。今回のエキシビションは選手たち以上に小久保裕紀監督以下、コーチ陣にとって貴重な経験を積む場となるのではないか。

2/2ページ

著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント