相撲人気を回復させた力士の意識改革 忘れてほしくない不祥事の記憶

十枝 慶二

営業努力が導いた相撲人気

1月場所では18年ぶりとなる15日間連続の満員御礼を記録するなど、人気復活を遂げた大相撲。その背景には力士たちの意識変化もあった 【写真は共同】

「大相撲人気復活」という声をよく耳にする。東京・両国国技館で行われた1月場所は18年ぶりに15日間満員御礼の盛況。8日に初日を迎える3月場所(大阪・大阪府立体育会館)のチケットも土日開催分は発売から数日で完売し、平日開催分も残りわずかとなっている。

 書店には相撲関連ムック本が並び、相撲好き女子=「スージョ」なる言葉も生まれた。1年半前まで閑古鳥が鳴いていたのがウソのようだ。原動力は遠藤や逸ノ城などの若手力士の台頭。そして、忘れてならないのが、相撲協会の営業努力だ。

 本場所中の国技館の様子は、ここ数年で一変した。以前はなかったたこ焼き、おでん、豚まん、窯焼きピザなどの売店が続々と出店し、野球場のようなビールの売り子も登場。和装の観客に限定グッズ配布などの特典がある「和装day」、横綱・大関に赤ちゃんを抱っこしてもらうなどの特典付きチケット、遠藤の「お姫様抱っこ」の顔出しパネル、人気力士自らが監修したミニスタンドライトのガチャポンなど新企画・新商品も次々と投入され、毎場所、新しい発見や楽しみがある。さらに、相撲協会公式Twitter、Facebook、LINEで情報を頻繁に発信。こうしたツールを通じて相撲に興味を持ち、会場に足を運んだ新しい観客が、テレビからは伝わらない相撲観戦の魅力を知り、リピーターとなる。そんな下地が生まれつつあった時に、遠藤や逸ノ城という新しい人気力士が現れた。だからこそ、人気回復に拍車がかかったのだ。

大きく変化した力士の意識

 注目すべきは、こうした営業努力が、力士たちも当事者となって行われていることだ。ほんの数年前まで、力士のファンサービスはお世辞にも褒められたものではなかった。本場所中、会場に入ってくる力士にサインを頼んだ子供が、付け人に大声で怒られるのは当たり前の光景だった。ところが今では、どの力士も、サインを求められれば足を止め、丁寧に応じるようになった。

 本場所だけではない。全国各地を回る巡業でも、サインや記念写真を求められれば、快く応じる力士たちの姿が見られる。巡業以外にも、人気力士たちによるトークショーなどのイベントが急増。プロ並みの歌唱力で知られる人気力士・勢とのカラオケ会、最年長力士・旭天鵬の40歳の誕生日を祝う会など、それぞれの力士のキャラクターに合わせたユニークなイベントも多い。また、公式Twitterなどでは、力士たちが新しいグッズを手に持って紹介しているほか、素顔がのぞけるプライベートショットも公開。そうした画像からも、力士たちが積極的にイベントに関わり、ファンを大切にしている姿勢が伝わってくる。

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著者プロフィール

1966年、東京都生まれ。フリーライター・編集者。大学時代は相撲部に所属。卒業後、ベースボール・マガジン社に勤務して、「月刊相撲」「月刊VANVAN相撲界」編集に携わり、両誌編集長も務める。約7年間勤務後に退社。教育関連企業での7年間の勤務を経て、フリーに。「月刊相撲」で、連載「相撲観戦がもっと楽しくなる 技の世界」、連載「アマ翔る!」(アマチュア相撲訪問記)などを執筆。

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