ウーデゴーを生んだノルウェー育成クラブ チームの発展に貢献した2人の功労者

鈴木肇

“クロップの信奉者”デイラのサッカー

現在はセルティックを指揮するデイラ監督。彼の薫陶を受けていなければ、ウーデゴーはここまで騒がれる選手にはなっていなかったかもしれない 【Getty Images】

 マンチェスター・シティとのパートナーシップ締結にこぎつけたフローの功績は大きい。だがフローの最大のファインプレーは、ある人物をトップチームの監督に任命したことかもしれない。ロニー・デイラ。現在セルティックで監督を務める38歳は、14年シーズン途中までストロムスゴッセで指揮を執っていた。06年にクラブの選手兼アシスタントコーチに就任したデイラは08年にフローの任命により監督に昇格する。現役時代は国際的に無名だった元DFは、ストロムスゴッセに新しい息吹をもたらした。

 デイラのモットーは「攻撃サッカー」と「育成」。

 09年シーズンが始まる前のことだ。デイラは地元メディアに「醜いサッカーを見せるくらいなら降格したほうがマシ。残留のために攻撃サッカーというスタイルを変えるつもりはない。(降格が原因で解任されることになっても)クラブの育成に対する考えは私の立場よりもはるかに重要だ。私の仕事は選手を育てることだ」と言ってのけて周囲を驚かせた。状況判断を伴わず、リスクを回避したロングボール主体のサッカーに将来性はなく、選手の成長を妨げるという信念をのぞかせた。

 デイラの標榜するアタッキングフットボールは年を追うごとに完成度を増す。10年には国内カップ戦優勝を果たし、12年にはリーグ戦2位に躍進。そして翌13年には43年ぶりのリーグ優勝を成し遂げる。ショートパス主体の娯楽性溢れるサッカーは観客を魅了した。ライバルクラブであるモルデの米国人FWジョシュア・ガットは「ノルウェーでは『ボールを高く蹴り上げて空中戦で競り勝つ』というスタイルを採用しているクラブが多い。だがストロムスゴッセは他とは一線を画す」とデイラのスタイルを高く評価した。

 デイラといえば、現在ボルシア・ドルトムントで指揮するユルゲン・クロップの信奉者として知られている。実際、若手の積極起用など共通点は多い。デイラ自身、かつて「クロップのドルトムントにおける成功には深い尊敬の念を抱いている。聞きたいことがたくさんある」と語っていた。

目標は「世界最高の選手になること」

今シーズン終了まではレアル・マドリー・カスティージャでプレー。「世界最高の選手になる」という目標はかなうか 【写真:ロイター/アフロ】

 フローとデイラ。この2人なくして、今日のストロムスゴッセはあり得なかった。ウーデゴーは、デイラのもとでノルウェートップリーグデビューを果たした後、「(最年少)記録を塗り替えたことはとても大きな意味をもつ。このクラブが若手を積極的に登用していることを示した」とストロムスゴッセのスタイルを高く評価した。

「ストロムスゴッセの環境がウーデゴーというタレントを生んだ」などと断言するつもりはない。ユーロ(欧州選手権)2000を最後にビッグトーナメントから遠ざかっている小国ノルウェーから、レアル・マドリーのようなビッグクラブへ移籍するような選手が誕生したこと自体、非常に珍しいことだ。ウーデゴーの出現は単なる自然発生と言えるかもしれない。だが、もしウーデゴーがストロムスゴッセでプレーしていなかったら、デイラの薫陶(くんとう)を受けていなかったら、ストロムスゴッセがノルウェーの他クラブとは異なるパスサッカーを実践していなかったら、これほど騒がれる選手になっていただろうか。

 余談だが、レアル・マドリードはウーデゴーのほかにもうひとりの若手選手に触手を伸ばしているという。ウーデゴーと同じくクラブの下部組織で育ったイベル・フォッスムという18歳だ。レアル・マドリーはウーデゴー獲得の際、フォッスムに関する情報も求めてきたという。フォッスムがレアル・マドリーへ移籍するかどうかはともかくとして、ストロムスゴッセはウーデゴーを育てたクラブとして世界のサッカー関係者の記憶に残るだろう。

 ウーデゴーは今シーズン終了までレアル・マドリーのBチームにあたるカスティージャでプレーすることが決まっている。ウーデゴーがレアル・マドリー行きを選択した理由のひとつが、カスティージャで指揮を執るジネディーヌ・ジダンの存在だ。今年1月にレアル・マドリーを訪問した際に、ジダンから入団をすすめられたのが決め手となったという。ウーデゴーは「レアル・マドリーが競争の激しいリーグに所属するBチームを有していること、それに世界最高の選手だった監督が指揮していることは自分の成長にとって大きなアドバンテージだ」と話す。

 ウーデゴーの目標は「世界最高の選手になること」。“神童”として期待され、その後大成しなかった選手は数知れないが、彼らと同じ轍(てつ)を踏むことなく成長してほしい。

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著者プロフィール

1978年生まれ。埼玉県出身。1994年米国W杯で3位入賞したスウェーデン代表に興味を持ち、2002年日韓W杯ではデンマーク代表の虜になり、スカンジナビアのサッカーに目覚める。好きな選手はイェスペア・グロンケア。自身のブログ(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/swe1707/)でスカンジナビアのサッカー情報を配信中。

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