川淵チェアマンが示した制裁解除への道筋 日本のバスケファミリーに求められる我慢
反発をにじませるbjリーグ
川淵チェアマン(中央)による新リーグの“私案”を神妙な面持ちで聞き入るbjリーグの中野秀光社長(右)と河内敏光コミッショナー(左) 【スポーツナビ】
bjリーグ側からの意思表示は、完全な拒否ではなくとも、反発がにじむモノだった。島根スサノオマジックの尾崎俊也社長は面談の翌日、自身のブログで「bjリーグ所属のチームの1社として、今回のやり方が本当に良かったのかと疑問に思います」「事前の打合せもなく、いきなり“私見”という形のルールを突きつけられ、その結果としてチーム会社が倒産に追い込まれたらどうするのかと強い疑問を感じました」「すでにプロチームがあって今まで10年間地道に経営を行って発展を続けて来ているところに、いきなり何の擦り合わせも無く『ルールが変わるので従ってください』と言われても難しいのではないかと思う」と述べている。
リーグも「お話をいただきました内容は、川淵チェアマンの私見とのお話で、本日お聞きしたばかりの内容でありました」「bjリーグの10年間の経験がリセットされてしまうことのないよう、われわれの意見も取り入れていただきたいと考えております」「2015−16シーズンに関しましては、『ターキッシュ エアラインズ bjリーグ 2015−2016シーズン』として、これまで通り開催いたしますことを併せてお知らせいたします」というリリースを即座に発表した。
リーグと球団の経営を真剣に考えれば“リセット”をすんなり受け入れられない立場は理解できる。bjリーグもバスケ界の停滞を望んでいるわけではないだろうが、JBAと違い女子代表や各年代の代表チーム、草の根に対して直接的な責任を持って関わる立場ではない。男子の代表選手も大半はNBL所属で、bjリーグ側にとって国際的な活動が禁止されることによる損害はおそらく大きくない。新リーグ設立のメリットとデメリットを比べると、当面はむしろデメリットが強く出るはずだ。
野心的ビジョンとスピード感が必須
FIBAのバウマン事務総長(左)が求める難題クリアに向け、川淵チェアマン(右)はスピード感を持って野心的に臨んでいる 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】
仮に別の人間がバスケ界を主導することになったとして、川淵チェアマン以上の理解があるとは思えない。もちろんbjリーグが具体的で、なおかつより優れた代替案を1日や2日で提示できるならばいいだろう。しかし“もっと良い案が出てくるのを待つ姿勢”は決してポジティブでない。そして議論の引き伸ばしによって害されるものは、bjリーグやNBLの運営にとどまらない。
6月初旬までに新リーグ設立のめどが立たなければ、男女の代表チームは15年8月に開催され、リオ五輪への予選を兼ねるアジア選手権への出場権を失う。五輪に向けて努力を続けている選手にとって耐え難いことだろうし、影響は一大会に止まらない。「その次のアジア選手権はディビジョン2からだと思う。そうすると、次の世界選手権にも出ることができない」と内海知秀・女子日本代表ヘッドコーチが説明するように、18年に開催される女子ワールドカップ(編注:14年までは女子バスケットボール世界選手権)の出場権までも奪われかねない状況だ。
川淵チェアマンは野心的なビジョンとスピード感を、タスクフォースに持ち込んだ。それこそは今まで日本バスケが欠いていた要素だ。いずれはバスケを愛し、バスケをよく知るインサイダーがバトンを引き継ぐ時代が来る。時代と現実に合わせてビジョンを修正する“次の手”も必要だ。しかしまず踏み出さなければ、スタートラインはもっと悪い位置になる。まさに今、スピード感こそが、選手、経営者も含めたバスケットボールファミリーに求められている。