“マトリョーシカ”フェブラリーS 乗峯栄一の「競馬巴投げ!第92回」

乗峯栄一

ぼくはアダルトビデオが好きだ

[写真4]東京に強い角居厩舎、サンビスタに賭ける! 【写真:乗峯栄一】

 唐突な話だが、ぼくはアダルトビデオが好きだ。

 30数年前の高校生の頃は大変だった。本一冊買うにも辛酸をなめた。わが思春期を過ごした兵庫県・姫路の山陽電車のガード下に、右半分が学習参考書、左半分がエロ本という、おかしな本屋があった。

 ぼくはまず右側で「世界史の傾向と対策」を持ち、奥をぐるっと左に回って、黒いシュミーズの女が片足を上げて微笑み“特集・レース1枚で快感倍増”と書かれた「月刊・夫婦生活」(この本を見たくて見たくて前から狙っていた)を「世界史」の下に隠してカウンターのおじさんの前に出す。隠すと言ったって、おじさんは一冊一冊レジを打たねばならない。「夫婦生活」を見たとき、おじさんは老眼鏡ずらして学生服姿のこっちを見上げる。

「あ、あの、親に買って来てくれって頼まれて」と小声を出す。

 どこの親が高校生の息子に「エロ本買ってきてくれ」と頼むか! しかしそのおじさんは優しかった。何も言わず両方一緒に袋に入れ「夫婦ってのは大変だからね」などとよく分からない独りごとを言う。それ以来「夫婦生活」は毎月の愛読書となり、お陰でぼくは高校2年にして既に夫婦生活の表も裏も大方把握してしまった。

 そんなことはさておき、今はAV、それも特に人妻不倫物を愛好している。そこで気になるのは、人妻と不倫する男というのは、必ずコトの最中に「旦那のと比べてどうなんだ、ええ? 奥さん?」と聞く。必ず聞く。悲しい男のサガだ。そしてこの場合、ほとんどの人妻は「あ、あ、あなたの方が大きいわ」と喘ぎながら答える。もう数百本は見ているが「だ、だ、旦那の方が大きいわ」と答えて、その場の雰囲気を台無しにするような不倫人妻は見たことがない。

“藤村富美男の物干しバット”みたいなものを……

[写真5]東海Sが良かったインカンテーション 【写真:乗峯栄一】

 しかし問題はここからだ。Aという男が人妻と不倫して「旦那より大きい」と言われていい気になる。しかしAの嫁がBという男と不倫したときも必ず「旦那より大きい」と言う。さらにBの嫁がCと不倫したときも「旦那より大きい」と言い、Cの嫁がDと不倫したときも「旦那より大きい」と言う。

 旦那A<旦那B<旦那C<旦那D……、不倫妻たちの証言によれば、数学で言う無限発散数列となり、こうなると最後の旦那Zはもう“伝説の阪神タイガース藤村富美男の物干しバット”みたいなものをブルンブルン振り回していなければならなくなる。そんなもの、パンツはおろかズボンにも入りゃしないぞ。

「“わらしべ長者”なんて、そんなもの現代には有り得ない」と普通人は言うが、不倫人妻の集まりではそうではない。「私たちの経験では、わらしべみたいなチンケなワラが藤村富美男の物干しバットに化けていくことはよくあるわよねえ、ふふふふ」とブラジャー1枚・パンティ1枚、片足上げて微笑み合っている。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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