大田泰示の覚醒を予感させる技術の変化 未完の大器に訪れた最後の大チャンス

鷲田康

打ち破れなかった技術的な殻を破る

昨シーズン後半から技術的な変化が見られた大田(左)に、原監督(中央)も期待感を口にした 【写真は共同】

「大田はチャンスでしょう。最大のチャンスです。今年は裏づけがある」

 宮崎で行われている春季キャンプ。監督の話を聞くと、こんな言葉が飛び出してきた。

「今年の大田は戦えるだけのメカニックを持っています」

 これまでは素質だけで、それを安定して発揮できる技術的裏づけがなかった。ところが今年は(というより昨年のシーズン後半ぐらいから)、その技術上の変化を指揮官は見てとっているのである。

「バットの出が一定になってきた」

 原監督の解説だ。

「今まではちょっと変化をつけられたり、揺さぶられるとスイングがあおったり、あるいは上からかぶったりと不安定だった。それが今年は速いボールでも、遅いボールでも、トップの位置から同じ軌道でバットが出てスイングできるようになっている。非常にスムーズだし、安定してきたと思います」

 これまでどうしてもむけなかった一皮がむけ、打ち破れなかった技術的な殻を破った。だから今年の大田はチャンスだ、と指揮官は見ているわけである。

チーム改革の柱になるか

 しかも、今年の巨人はピンチである。
 昨年はリーグ3連覇を達成しながら、クライマックスシリーズで阪神にまさかの4連敗。根本的なチーム再建を目指して、ここ数年のチームの大黒柱だった阿部慎之助を捕手から一塁にコンバートするなどの改革に乗り出した。その上で「慎之助、(村田)修一、内海(哲也)、杉内(俊哉)に頼らないチームを作る」と宣言して、チームの解体と再構築を目指している。

 ただ、そこで本来なら坂本とともに、前述の4人に続く第2世代の中心的存在になるはずの長野久義が、昨オフに受けたひざの手術のために、開幕復帰が危ぶまれている。
 その穴を埋める存在として、大田がクローズアップされているわけである。

 そう……チームのピンチは、大田の大チャンスなのである。しかも監督の頭には長野が戻ってきても、この右の大砲がセンターに入って、あわよくば「4番」を打てる成長を見せれば、チーム改革の柱になり得る存在としての期待も込められている。

 ここであとは大田がどれだけギラギラした輝きを、オーラのようなエネルギーを見せて、結果を出せるか。足もあり、肩も強く、身体的能力はチーム随一であることは誰もが認める事実である。そうして今年はメカニックの裏づけもついてきた。いかにこのチームのピンチを自分のチャンスにできるか。自らの手でレギュラーポジションを手繰り寄せる意気込みと、あとはどれだけの運を持っているかにかかるのかもしれない。

「あまり褒めたくないけど、計算上は、というのはあるね」

 大田が大化けする可能性を問うと、指揮官はこう語って笑った。
 机上の計算で終わるのか。それとも計算通りに、見立て通りに今年こそ覚醒するのか。
 いずれにしても大田泰示のレギュラー獲りは、今年が最後の大勝負となるのは間違いない。

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著者プロフィール

1957年埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、報知新聞社入社。91年オフから巨人キャップとして93年の長嶋監督復帰、松井秀喜の入団などを取材。2003年に独立。日米を問わず野球の面白さを現場から伝え続け、雑誌、新聞で活躍。著書に『ホームラン術』『松井秀喜の言葉』『10・8 巨人VS.中日 史上最高の決戦』『長嶋茂雄 最後の日。1974.10.14』などがある。

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