美宇・美誠の才能はどう育まれたのか? コーチとして2人を育てた母の告白

高樹ミナ

14歳コンビが世界卓球代表に

中国・蘇州で行われる世界選手権出場が決まった伊藤美誠(左)と平野美宇 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 全日本卓球選手権が幕を閉じた翌19日、日本卓球協会が中国・蘇州で開かれる世界選手権(4月26日〜5月3日)の代表メンバーを発表した。その顔ぶれの中でひときわ目を引いたのは平野美宇(JOCエリートアカデミー)・伊藤美誠(スターツSC)の中学2年生コンビ。昨年末のITTFワールドツアー・グランドファイナル優勝など結果を出したダブルスだけでなく、シングルスにも起用されるサプライズだった。

 まだあどけなさが残る2人の選手は、弱冠14歳とは思えない優れた競技パフォーマンスで、すでに大勢のファンを魅了している。いったいあの才能はどのようにして養われたのだろうか。その秘密に迫るべく、中学に上がるまで彼女たちのコーチをしてきた両選手の母親に話を聞いた。すると対照的ともいえる2人の指導の違いが見えてきた。

「五輪で金」が平野親子の夢になった瞬間

07年の全日本選手権バンビの部で優勝した際、「五輪で金メダル」を口にした美宇ちゃん 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 平野(以下、美宇ちゃん)が卓球を始めたのは3歳半。母・真理子さんと一緒にいたいばかりに、彼女の開く卓球教室に入れてもらったことがきっかけとなった。卓球がうまかったこと、思い通りにプレーできないとよく泣いていたことなどから「第二の(福原)愛ちゃん」の愛称で呼ばれていたが、「当時、そういう子は全国にたくさんいた」と真理子さん。そして、「美宇も私も、初めから五輪を目指していたわけではなかった」と話す。

「あの子が自分の夢を『五輪で金メダル』と口にしたのは、2007年の全日本卓球選手権バンビの部で優勝したとき。表彰式直後のテレビ取材で初めて自分からそう言ったんです。当時はキティちゃんが大好きで、将来の夢は“キティ屋さん”と言っていたくらいなのに(笑)。私はちょっと心配になって、無理して周りに合わせなくていいのよと言いました」

 すると美宇ちゃんは、「ママ、違うの。もう美宇の夢は五輪で金メダルなの」ときっぱり告げたそうだ。それまで真理子さんはメディアの過剰な報道から娘を守るように、「五輪を目指しているわけじゃありません」と公言してきたが、この瞬間に「五輪で金メダル」は2人の夢へと変わった。

夢の成長に合わせて環境を整える

 現在はナショナルトレーニングセンター(東京・北区西が丘)のエリートアカデミーで寮生活をしながら競技に励む美宇ちゃんだが、小学校卒業までは母のもとで毎日3時間の練習を欠かさなかったという。小さな子どもにそんなに練習させて、というような声もなかったわけではないが、「卓球で強くなりたいというのも、五輪で金メダルを取りたいというのも、すべて本人の意思。ならばそうなれるよう練習環境を整えてあげるのがコーチであり、親である私の役目だと思ってきました。そうでなければ、大切な娘を中学生で手放すなんてしませんよ」とちょっぴり切ない胸の内を真理子さんは明かす。

 彼女はプロの競技指導者ではない。ただ結婚前に10年間の教師歴があり、子どもの指導においては立派なプロといえる。実際、彼女の卓球教室を訪ねると、その練習がなぜ必要なのか、それをするのとしないのとでは何がどう違うのかなどを生徒たちに順序立てて丁寧に説明している。美宇ちゃんに対しても、本人が答えを導き出せるよう語りかけることを大切にしてきた。時にはつい感情的になってしまうことや、本人の耳に痛いことを進言することもあるが、「反省の繰り返しです。一方、親だからこそ見えることもあって、それは良い点に関しても同じです」と真理子さん。母として、コーチとして、美宇ちゃんの優れた点をどこに見いだしているのだろうか。

「あの子のすごいところは根気強く努力し続けられるところ。そして、高い意識を持ち続けられるところです。それは卓球だけでなく、折り紙が上手に折れなければ、紙がくしゃくしゃになるまで何度も折る。二重跳びがうまくなりたければ、卓球練習の休憩時間に跳んでいる。卓球の練習を休みたいと言ったことも一度だってありません。親の私が驚くぐらい、ひたむきで謙虚。そのモチベーションは人との比較でもなく、周りからの評価でもなく、自分の納得感にあるんです」

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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