野球の人材中継点として機能する豪州 MLB、NPBを夢見て腕を磨く選手たち

石原豊一

外注された育成地としての豪州

将来はNPBでのプレーを夢見るスティーブン・チャンバス。2015年シーズンは日本でプレーするそうだ 【石原豊一】

 MLB・オリオールズのスカウト、ブレッド・ワードに豪州野球のメッカ、ゴールドコーストを案内してもらう。この周辺は比較的野球の盛んな地域だが、それでも一番人気のオージー・フットボールやサッカー、クリケット、ラグビーの後塵を拝している。
 まずは大小の野球用フィールドが2面と、多目的グラウンドがある施設を訪れた。ジュニアからシニアのトップレベルまで複数のチームを抱える地元クラブ・サーファーズパラダイスは、自治体からここを独占的に借り、今まで多くの日本人もプレーした。
 MLBや中日で活躍後、現在はABL球団の監督として豪州野球の発展に力を尽くしているデービッド・ニルソン(中日時代の登録名はディンゴ)は1月はじめ、ここで少年野球の国際大会を開いたという。

 次に訪ねたのは、パームメドウズ。ゴルフ場とホテルがセットになったこのリゾート施設で、中日がかつてキャンプを張った。だが、球場はすでに廃墟になっており、フェンスに囲まれたメーン球場だけが、かつての名残を残していた。2500人を収容したというスタンド、選手食堂、管理棟は跡形もなくなり、サブグラウンドは荒れ地になっていた。 
 ここでは、半年前までMLBのアカデミーが行われていたという。豪州人のほか、アジア、オセアニア、南アフリカ、欧州からスカウトされた経験の浅い選手が集められ、リーグ戦が開催された。選手は、MLB球団とプロ契約した者と、アマチュア選手が混在しており、過去にはMLB球団と契約を結んだ高卒の日本人選手もここでプレーしている。コーチ陣には、豪州代表の元監督や、かつて広島でもプレーしたジャスティン・ヒューバーらが名を連ねる。

 この育成システムの下、14年シーズンは、国外のプロリーグに47人の豪州人選手が送り出された。NPBのマウンドに立ちたいという夢をもつスティーブン・チャンバスは、高校卒業後、発足したてのABLのブリスベン・バンディッツに入団するものの、登板機会に恵まれず、11年にチェコへ渡った。その後、13年シーズンは就労ビザの関係でBCリーグで無給の練習生。14年もビザのめどが立たず、チェコに舞い戻ったが、今年はその問題も解決し、すでに日本の独立リーグ球団でのプレーが決まっているという。

 彼の姿からは欧州で自らの技量を養うとともに、欧州の野球振興の先兵の役割も担ったことがうかがえる。また、豪州が日本、欧州と米国をつなぐジョイントの役目を果たしていることも読み取ることができる。

効果をもたらしたMLB開幕戦

シドニー郊外にあるブルーソックス本拠地球場の最寄り駅。試合があるにも関わらず閑散としている 【石原豊一】

 シドニー・ブルーソックスのホーム球場は、街の中心から電車で小1時間かかる場所にある。昼間でも閑散とした最寄り駅を観戦に利用するファンはほとんどいない。このアクセスの悪さは、ABLの現在の立ち位置を端的に表わしている。ここにある2000人収容の球場がこの国一番の野球専用施設で、シドニー市街に本拠地を移す構想はあるという。
 昨年の春、豪州初のMLB開幕シリーズが行われたのは、街の中心にある収容3万人のクリケットグラウンド。しかし、これはあくまで臨時のイベントだったからこそ可能であった。このクリケット場の横に新球場を作りたいそうだが、財政的な問題から話は具体化していない。シドニーの中心部には、プロ野球を開催できる球場はなく、結局、アクセスの悪い球場を使わざるを得ないのだ。

 それでもMLB開幕シリーズはABLに好影響を与えた。シドニー球団が、このシリーズに際して、通常より早く今シーズンのファンクラブ・メンバーを募集したところ、メンバーは大幅に増加したという。

NPBでプレーした選手たちとの再会

ク・デソンのボブルヘッド人形。韓国、日本、MLBを渡り歩いたベテラン左腕は豪州でも人気者 【石原豊一】

 アクセスの悪さにもかかわらず、土曜のナイターは、ほぼ毎試合、大入りになるとスタッフは胸を張る。その人気を支えているのは、元メジャーリーガーの存在だ。元ドジャースの外野手・オエルチェンと並ぶ人気を博しているのが、オリックス、メッツなどでプレーした韓国人投手ク・デソンである。彼は現在、家族とともに豪州に移住し、隠居生活を送っている。すっかり穏やかになった表情からは、すでに45歳の彼にとって、ここでの野球は、もはや趣味のようだ。それでも、まだABLでは抑えの切り札として働ける力はある。リーグ、球団にとっても、彼の存在が集客の切り札になっていることは、球場のラウンジに彼のボブルヘッド人形が置かれていることからも分かる。

 もう一人、今シーズンはロースターに入っていないものの、球場に必ず顔を出すのがクリス・オクスプリングだ。アテネ五輪準決勝では、ジェフ・ウィリアムスとともに「長嶋ジャパン」を完封し、のちに阪神でもプレーした。その後、韓国や米独立リーグでもプレー。北半球のプロクラブと契約が結べなかった時は、ABLでプレーできたからこそ、昨シーズンは、韓国・ロッテで2ケタ勝利(10勝8敗)を挙げるなど復活した。このオフはブルペン調整だけにとどめ、来るシーズンは韓国の新球団・KTで迎えるという。

 彼らの姿からは、世界の野球が確かにつながっていることを感じることができる。

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著者プロフィール

立命館大学大学院国際関係研究科修了。国際関係学博士。専門は、スポーツ社会学・スポーツ産業学。著書に『ベースボール労働移民―メジャーリーグから「野球不毛の地」まで―』(河出書房新社)がある。

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