“山の神”なしでも青学大は勝っていた 駒澤大OB神屋氏が箱根駅伝を解説

構成:スポーツナビ

青山学院大は8区の高橋(左)、9区の藤川と区間賞を獲得し、10時間50分を切る総合タイムで優勝した 【写真:日本スポーツプレス協会/アフロスポーツ】

 第91回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)は、2日の往路、3日の復路ともに青山学院大が強さを見せて、10時間49分27秒という大記録を打ちたて、史上16校目となる優勝校となった。

 青山学院大は往路で2位の明治大と4分59秒差をつけてゴールし、復路での大きなアドバンテージを持ってスタートした。6区の村井駿(3年)が5分42秒、7区の小椋裕介(3年)が8分21秒、8区の高橋宗司(4年)が8分35秒と順調に2位との差を広げる。復路のエース区間・9区では、主将の藤川拓也が区間記録にあと3秒と迫る1時間8分4秒の快走を見せ、2位・駒澤大に9分56秒と大差をつけた。2年生でアンカーを任された安藤悠哉も勢いが衰えることなくフィニッシュテープを切った。

 2位は駒澤大、3位・東洋大、4位・明治大、5位・早稲田大と、戦前から“5強”と目されていたチームが上位を占めた。

 スポーツナビでは、駒澤大のエースとして箱根駅伝に4年連続で出場し(1999年〜2002年)、現在はランニングアドバイザーを務める神屋伸行さんに復路のレース展開と総括、そして今後の箱根駅伝の展望などについて伺った。

復路に経験者を残した良オーダー

――青山学院大が総合タイム10時間49分27秒という大記録を打ち立て初優勝を飾りましたが、その要因は?

 ひとつはバランスのいいオーダーを組めたことですね。9区に藤川拓也選手を残していましたし、7区に小椋裕介選手、8区に高橋宗司選手といった過去に(箱根駅伝を)走った経験のある選手を残していました。もちろん、往路にも主力を置いていましたが、復路にもしっかり走れる選手を残していました。5区の神野大地選手が、1時間16分台というすごい記録を出すと予測ができていたかは分かりませんが、神野選手があそこまでのタイムを出さなくても、ほかの選手の実力だけでもしっかり勝てていた可能性が高かったと思います。
 ここ数年続いていた、5区、6区の山重視に引っ張られないと言いますか、きちんと10区間を見越して配置して勝ったレースだったと思います。それは2年前に日本体育大が5区の服部翔大選手(現Honda)を中心に、2区の本田匠選手(現旭化成)や、9区に矢野圭吾選手(現日清食品グループ)を残して勝ったレースに似ていますね。

――復路の記録を見ると、青山学院大は7区、8区、9区で区間賞、6区、10区も区間2位の記録で走りました。各選手が好走できた理由は、やはり往路のアドバンテージにありますか?

 もちろんトップでの走りやすさもあると思いますが、9区に藤川選手がいたことが各選手の安心材料になったのだと思います。また7区の小椋選手、8区の高橋選手も過去に走っているので、ある程度、どれぐらいで走ればいいかという計算ができたと。また6区の村井駿選手も前回は6区区間18位でしたので、不安はあったかもしれませんが、それでもほかの選手が補えるという自信があったと思いますし、初めて箱根を走る選手にとっても、実績を持った選手がいることでやりやすかった部分もあると思います。それで安心して自分の仕事をすればいいという、気持ち的にもリラックスして走れたことにつながったと思います。

勝つためには“何か”が必要

駒澤大は9区の其田(写真)らも好走したが、主要区間で区間賞を奪えなかったことが痛かった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

――2位の駒澤大は優勝候補と言われて臨みましたが、最終的には10分50秒の差がつきました

 駒澤大は今回、戦略を変えて大会に臨みました。前回は9区に窪田忍選手(現トヨタ自動車)を残して負けてしまったところもあるので、今回は往路での“先制パンチ”を見据えたオーダーで、復路は安定感のある選手を置いていました。それが結果的に裏目になってしまいましたね。
 ただ駒澤大もしっかり力を発揮していたと思います。5区では馬場翔大選手が失速してしまうアクシデントもありましたが、それでも2位になったことがそれを示していると思います。やはり駒澤大は大八木弘明監督に変わって以来、ほとんど優勝争いに絡んでいます。ただその中で、箱根で勝つには強いだけでは足りなく、“何か”が加わってこないと勝てなかったのだと思います。

――その“何か”とは、やはり山でのアドバンテージですか?

 私はそうでもないと思います。バランスよく区間配置をすること、2区、4区、7区、9区で区間賞を取れるチームが総合的に勝てるチームだと思います。今大会の駒澤大はその4区間の区間賞を取れていません。(※2区は東洋大、4、7、9区はいずれも青山学院大)その4区間で区間賞を取っていれば山区間でプレッシャーをかけられたと思います。そのような微妙なバランスの上に箱根駅伝の勝利は成り立っていると思います。
 要は今回の青山学院大は駒澤大を圧するだけの“何か”を持っていて、それが10時間49分台という大記録にもつながっているのだと思います。駒澤大に関しても、5区の失速がなくても10時間55分台だったと思いますので、十分、チームとしては強いですが、それ以上に青山学院大が強かったですね。

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