黒田博樹、完璧を追い求めた果ての決断 “日本人史上最高の投手”にエールを

杉浦大介

古巣復帰が物語る黒田の価値観

黒田のいぶし銀の活躍は誰もが認めるところ。新たな挑戦を米国のファンやメディアも祝福している 【Getty Images】

 もちろん、徐々に衰えも感じられる自身の現在の力量、引退後の進路まで考慮に入れて決断を下したに違いない。ただ、たとえそうだとしても、“金よりもやりがい、愛着でカープを選んだ”という一連の報道が誤りだとは思わない。

 一部が報じた年俸1800万ドル(約21億6000万円)のオファーは信じ難いにしても、ヤンキース以外のチームを選び、メジャーに残れば、1年契約で1000万ドル(約12億円)前後は稼げていたはず。それよりも年俸的にはるかに安価の古巣への復帰を決めたことは、来年で40歳になる黒田の価値観を物語っているのだろう。

「1試合、1試合、最後のつもりで投げる」

 ニューヨークでの3年間、おそらくはドジャース時代も通じて、黒田は口癖のようにそう言い続けた。1球ごとに全身全霊を込めるような投球スタイルを見れば、その言葉が口先だけではないと誰もが信じられたはずだ。そして、ヤンキースでの仕事をついに果たし終えた黒田は、ここで故郷に帰ることを選んだ。

松井秀喜と同じく、NYの成功者として

 1年の最後にクリスマス、年の瀬という名目で家族、恋人が慣れ親しんだ場所に集まるのと同じように、最終的には誰もが最も必要とされ、愛される土地で過ごしたいと思うもの。40歳が近づいた今オフ、ホリデーシーズンに復帰を発表した黒田の少し遅れた“クリスマス・ストーリー”は、彼の人生におけるプライオリティーを分かりやすい形で示しているようでもある。

 来年以降にメジャーでその勇姿が見られないのは残念だが、米国の大地で丹念に積み上げた実績は語り継がれていく。宝石箱を引っくり返したようなマンハッタンにおいて、渋い味わいのいぶし銀のような投手だった。地味なキャラゆえに必ずしも人気選手とは言えなかったが、ヤンキースの先輩・松井秀喜と同じく、“ニューヨークの成功者”として認められていくことは間違いない。

 これから広島に戻っても、絶対に不可能な“完璧”を追い求める黒田のあくなき挑戦の日々は続いていくのだろう。生き馬の目を抜くようなニューヨークでも真摯(しんし)に投げ続けた投手だからこそ、誰もが素直に今回の決断を祝福し、さらなる活躍も期待している。その新たな旅立ちを、今では米国のファン、メディア、関係者も、心からサポートしているはずである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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