86連敗で卒業する東大主将の思い 六大学で得た財産を胸に新たな戦いの野に

岡田淳子

4年間の伸びしろが東大野球部の魅力

元中日・谷沢コーチ(奥)の指導により、打力は確実にアップ。来春での連敗記録ストップへ着実に力をつけている(写真は2011年のもの) 【写真は共同】

 東大の最大のハンディは実戦経験の少なさである。他大は高校時代からも含め経験豊富な選手が多い。さらに東大はオープン戦の試合数も少ない。有井の場合、高校に野球部がなく、サッカー部に在籍した。それだけ実戦経験が少ないことを感じていたと言う。

 逆に言えば大学での伸びしろが、他の大学よりもある、ということだ。4年間の成長が目に見えて分かる。それが実は東大最大の魅力でもある。

 中日で活躍した谷沢健一コーチの熱心で愛のある指導のおかげもあって、打力は全体的にアップし、秋の総得点は20と春から約3倍増。チーム本塁打4本は、14年ぶりだった。この4本のうち2本が有井の本塁打で打率1割8分4厘と高くないものの8打点を挙げた。同じ4年生の笠原琢志は打率3割3分3厘で打撃10傑入り。2人が在学しているうちに勝つことはできなかったが、彼らに続く選手が現れるはずだ。センスのある守備を見せる新主将・飯田裕太を中心に、今年のレギュラーも多く残る。投手陣は、新人戦で勝利経験のある3年・辰亥由崇、下級生にも2年・吉川慶太郎、2年・三木豪、1年・宮台康平など期待の好投手が残る。失点が減れば、勝利は必ずついてくるはずだ。けがに気をつけ、成長してほしい。

六大学で得た財産を胸に“新たな戦いの野”へ

「大学に入って毎日毎日野球のことを考えて過ごしていたが、全然結果が出なくて悔しくて情けなくて、ベンチ裏で泣いたことも何度もあった。それでも勝てなかった」

 有井には、勝利を知らない世代の主将として、後輩に伝えたいことがある。「1年は短い。無駄にしないでほしい」ということだ。

「試合の意識で練習に臨めば、練習試合でも試合に直結する。限られた練習試合やオープン戦など、与えられる実戦経験一つ一つを大事にして、真摯(しんし)に向き合ってほしい」

 そして、六大学野球という注目を集める場でプレーをし、観客から拍手を浴びることは気持ちいいものだ。しかしそれだけに、見られる立場を意識するようになった。「東大で野球をやっていることに慢心せず、野球以外でも一人間として、人に見られる立場であることをもっと意識してほしい」と言う。そうすることが、選手として、人間として成長させるということを実感したのだろう。

 在学中に勝利できなかったが、六大学野球は、「自分を人間的に成長させてくれた場所」と有井は語った。チームメート、他大学の野球部員、応援部員ら、多くの仲間を得て、多くの人に関わって多くの人から注目を浴びた。六大学で野球をした4年間は「財産」だと言う。

 日本の最高学府である東大に入学しただけで勝ち組と言われる。そんな中で一つのことに打ち込んだこと、そして結果が出ずに苦しんだこと、それは他の学生生活では決して得られることのなかった貴重な経験であったに違いない。

「勝てなかったけれど目標に向かって頑張る力、忍耐力はついたかなと。精神的な強さを今後生かしていかないといけない」

 春から有井は商社へ就職するが、そこで人生の“新たな戦いの野”で勝利をつかんでもらいたい。

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著者プロフィール

東京六大学野球応援紙〜YELL〜発行人。法政大学出身。1992年から早稲田大学出身の姉の協力のもと、同紙の発行を始め、観戦から執筆、編集、発行、配布まで自ら行っている。春秋のリーグ戦はほぼ全試合観戦し、観戦記を中心に執筆。1シーズン6回、もしくは7回発行している。

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