経営体質が一向に改まらないインテル 場当たり的な監督交代、見えない方針

神尾光臣

マンチーニのもとで生まれた変化

成績が悪ければすぐに監督を解任する。トヒル会長(左)就任以降も、モラッティ(右)時代からの経営体質は一向に改善しない 【写真:ロイター/アフロ】

 かくしてトヒルは「数字も重要」と語り、直近の勝利も視野に入れてマンチーニを招聘した。新指揮官も事情をよく理解していたのか、「若手の育成も進めた上で、いち早い勝利を目指したい」と、結果にもこだわる姿勢を見せていた。指導でも、早速自分の色を出す。3バックの踏襲はやめ、4バックへと変更。そして本来のポジションとは違う仕事をさせることを承知で、コバチッチやロドリゴ・パラシオらをウイングやサイドハーフに配置し、高い位置からのプレスを意識させた。

 果たして、ムードは多少変わった。名将の帰還に、マッツァーリにブーイングも浴びせたファンも再びインテルを応援するようになる。就任初戦となったミラノダービーでは上々の内容でドロー(1−1)。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のインテル番、マッテオ・ダッラ・ヴィーテ記者は「余計な横パスが減り、縦に仕掛けて敵陣の深みを素早く狙うようになった。マンチーニのカリスマでリズムは変わった」とポジティブに評価していた。

 選手たちも、変化を受け止めていた。フレディ・グアリンやファン・ジェズスは「マンチーニ監督のもとで活気が出てきたのは事実」と認めた。またダービーでは右サイドバックとして90分間プレーした長友佑都も「監督の要求はまだまだ高いところにあると思う。今まですごい選手たちを率いてやっていた監督なんで、このくらいのプレーじゃもちろん満足はしてくれない」と、モチベーションを新たにしていた(ただし彼は11月27日のヨーロッパリーグのドニエプル戦で右肩を脱臼し、軽傷ではあるが故障者リストに名を連ねている)。

 ドニエプル戦では先行された試合を逆転(2−1)。「マッツァーリ監督下では無理だった」と、メディアはマンチーニ監督の手腕を称賛したが、復活のムードは30日のローマ戦で早くもかき消された。ユベントスと優勝争いを展開する相手の勢いに押されて4失点。2点は奪うがセットプレーとパブロ・オズバルドの個人技によるもので、内容も押されっぱなしだった。「戦術を変え、急ピッチで仕上げて結果を出さなければいけない。そういう状況では混乱はつきもの」。試合後、マンチーニ監督はメディアに理解を求めた。

インテルはどこに行こうとしているのか

 もっともマンチーニも、最初からこの苦境を見通していた節がある。ミラン戦とドニエプル戦では中盤より前の守備が安定せず、それを受けて守備的MFを2枚増やすのみならず、これまで攻撃の柱として育てられたコバチッチやイカルディを外した。マッツァーリが同じことをすれば「守備的だ」と批判されていたところだが、ローマという強豪との一戦でマンチーニはドライな選択をしたというわけだ。ただ、そもそもの話として「今の選手たちを信用していないのでは」とメディアの間ではささやかれはじめている。

「彼は、チームプレーのできないイカルディやコバチッチのことを良く思っておらず、冬には3、4人の補強をクラブに突きつけるだろう。それにしても少し前はマッツァーリの契約を伸ばし、補強もしておいてこれだから、方針のないあきれたクラブだ」。あるインテル番記者は、匿名でこう吐き捨てた。

 似たような境遇にあるミランは、我慢してチームの世代交代を行いながら、赤字を減らしマーケティングを強化するなど経営体質の改善を図っている。その一方でインテルは、体質が改まらない。現時点で累積赤字は約1億300万ユーロ(約152億円)といわれる。発足から1年ばかりの新経営陣の成果が現れるのはこれからだが、今回のマンチーニ就任で2年半の契約金と税金も含めて3000万ユーロ(約44億円)ほどの余剰支出が決定。さらに今後は補強も要求されるが、収入増の経営プランは増資(もちろんUEFAファイナンシャル・フェアプレーのもとで制限あり)と将来のCL進出以外に今のところない。このカオスの中、インテルはどこに行こうとしているのか。「急ピッチで仕上げて結果を出す」という選択は、ある種の狂気もはらんでいるように感じられる。

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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