マーク・ハント、UFC王座戴冠なるか!? 高阪剛氏がヘビー級王者決定戦を大胆予想
ポイントはどちらがより“MMA”ができるか
これはヴェラスケスの欠場による降って湧いたチャンスではありますけど、今年のUFC日本大会前にハントと雑誌で対談したとき、「将来的には、UFCのチャンピオンベルトを腰に巻く」って、明確に言ってましたから。少しタイミングは早くなりましたけど、ハントにとっては「ようやくチャンスが舞い降りてきた」っていう感じでしょうね。
――なるほど。もう2試合ぐらい前から、チャンスがあればいつでもいくぞっていう気持ちでいたかもしれないですね。
当然、そこまでの実績も残しているし、なおかつタイトル戦に向かう姿勢がないと声はかからないので。降って湧いたものではあっても、これはハント自身がついにつかみとったチャンスと言っていいでしょうね。
――それにしても、ハントっていうのはもともとUFCが参戦させたくて契約した選手ではなく、PRIDEを買収してきたとき一緒に選手契約もついてきちゃっただけの選手だったわけじゃないですか。UFC参戦前の戦績も5連敗で、デイナ・ホワイト代表も当初は、残り試合分のファイトマネーだけ払って、試合はさせずにリリースするつもりだった。その選手がUFCの頂点であるヘビー級タイトルマッチまで到達するなんて、奇跡的ですよね。
だから、本当の意味でハントが自分の力で勝利を積み重ねて、ここまで登ってきた結果なんですよ。
――まさにサモアン・ドリームというか(笑)。そのハントがUFC王者になれるかどうか、試合のポイントはどこにあると思いますか?
当たり前のことなんですけど、どっちがよりMMA(総合格闘技)の試合ができるかってことだと思いますね。
――どちらがMMAファイターとして完成度が上か、と。
ファブリシオは柔術の元世界チャンピオンで、ハントはK−1の元チャンピオン。それぞれ組み技と打撃のスペシャリストという対照的な二人なんですけど、ファブリシオなんかは、ここ最近かなり打撃の技術が向上してるんですよね。
――数年前、ストライクフォースに上がってた頃とは別人のようですよね。
たとえば前回(4月19日「UFC on FOX 11」)、トラヴィス・ブラウンとやったときなんか、柔術家としての強みを残しながら打撃、とくにパンチの技術で試合を優位に進めてましたよね(3−0判定勝ち)。
――そうですね。あのジョシュ・バーネットやアリスター・オーフレイムを1ラウンドでKOしているトラヴィス・ブラウンを、しっかり打撃で上回ったのは驚きました。
トラヴィス戦前までのファブリシオっていうのは、打撃の技術は向上していたんですけど、実はパンチの空振りが多かった。だから、空振りを繰り返しながら、当てるタイミングであったりとか、倒すポイントをつかんでいったんじゃないかと思うんですよ。
――ジムでの練習で技術を向上させただけじゃなく、しっかりと実戦で感覚をつかんだ、と。
ということは、完全に実戦で使える打撃を身につけたっていうことですよね。そうやってトラヴィス・ブラウンをも上回るようになったファブリシオの打撃と、K−1時代から培ってきて絶対の自信を持っているハントの打撃技術が相まみえた瞬間、どっちが差し勝つのかというところに、まず興味がありますね。
――K−1王者ハントがMMAにアジャストさせた打撃と、最初からMMA用に磨き上げたファブリシオの打撃のどっちが有効打を与えるか。
そうですね。
ハントには自分からタックルに行ってほしい!
あのテンカオ(カウンターのヒザ蹴り)なんかも、試合でドンドン使っていって、距離感だったりタイミングだったりを身につけたものだと思うんですよ。数試合前まで、なかなかうまくいかない試合もありましたけど、それでもしつこく続けた結果だと思うんですよね。
――あのヒザ蹴りはハントにとっても嫌でしょうね。ハントはファブリシオより10センチ以上身長が低いですから、顔面にヒザがビュンビュン飛んで来るわけですもんね。
ハント目線で言うと、しっかり警戒しなきゃいけない攻撃になりますよね。ただ、ハントはそういう相手とばっかり試合してますから(笑)。
――そうですよね。K−1時代からずっと(笑)。
セーム・シュルト(身長212センチ)ともやってるし、UFCでもステファン・ストルーブ(身長213センチ)とやってますからね。自分よりデカい相手とやるのが当たり前だったんで、距離の設定とかそういう部分での迷いはないと思うんですよね。
――では、そこまでやりづらさはないだろう、と。
そう思います。その一方で、ハントもグラウンドがすごく上達していますから。これは自分の興味なんですけど、ハントにタックルをやってほしいなって思ってるんですけどね。
――ほう、ストライカーのハントにテイクダウンを奪いにいってほしい、と。
ハントのあの体重と打撃の重さを考えると、上のポジションを奪えば絶対に有利だし、またガードポジションからの攻めが得意なファブリシオに対して、それをさばく技術を身につけていたとしたら、これはあらゆる意味でハントの勝ちでしょう。だから、凄く自分は興味がありますね。
――打撃で上回ったのではなく、「MMAで上回った」証明となるわけですね。
ハントはタックルを切る技術も上がってきているし、自分からタックルを仕掛けるのも、何試合か前にやってるんですよ。そして上のポジションになって、いわゆるマット・ヒューズポジションをやった試合があるんですけど。それができるということは、そこに至るまでのテイクダウンを奪う距離の設定なんかもできている、ということだと思うんですよね。それをファブリシオのような元々組み技系の選手に、打撃の選手が成功したら、これはあらゆる面で優位に立てるんですよ。精神的にダメージを与えることもできるし。
――タックルも切られて、逆にグラウンドでプレッシャーかけられたら、ファブリシオは打つ手がなくなってきますよね。
また仮にもしハントがグラウンドで上になれたら、圧倒的にファブリシオのほうが息苦しくなるのが早い。あれだけの肉が乗ると、相当消耗するんですよ。
――スタミナっていろんなかたちで消耗すると思いますけど、上に乗られただけでもかなり減るものですか?
消耗しますね。ヘビー級は、そこが軽量級と違うところで。そんなに動いてなかったのに、突然ガスが切れちゃうときっていうのは、だいたい上に乗られて圧力をかけられて、乗られるだけで削られてるんです。で、さあ、立ち上がったところで呼吸が戻らないので、そこから失速するというのが、よくあることなんですね。
――となると、ファブリシオもグラウンドに持ち込みたいからといって、やすやすと引き込むわけにいかないですね。
そう簡単に引き込みにはいけないと思いますよ。上に乗られてプレッシャーをかけられたら、キツいだろうし。あとは、ハントは上半身の肉が厚いので、三角絞めが入るのかどうかというのもポイントですね(笑)。
――ハントって、これまでグラウンドで一本負けしたことは何度もありますけど、三角とか絞め技で負けたことはないんですよね。
ないですね。たぶん、首がないから(笑)。ないものは取れないんですよ。
――となると、ファブリシオ得意のグラウンドであっても、上を取らないかぎり、有利とは言えない、と。
そうですね。逆にファブリシオが網に押し付けてからのクラッチで倒すということをしっかりできて、グラウンドでコントロールしてきたら、ハントも分が悪いと思うんですけど。そのタックルにきたときクラッチを取らせなかったりとか、ケージ際の動きでスタンドに戻す技術とかを、ハントが5ラウンドの長丁場の中でできたら、勝ち負け云々を抜きにしても、タイトルマッチをやれるだけの状態にいるという証明になると思うんで。これは勝手な希望なんですけど、そういう組んでからの展開もできることをちゃんと見せてこそのチャンピオンだと思うんで、ハントにはそこまで期待したいですね。
――勝つにしても、「ファブリシオと相性が良くて、打撃で勝てた」というのではなく、MMAファイターとしてトータルの実力が高いからこそ、チャンピオンになったというかたちを見せてほしい、と。
そういうことですね。ハントは、ここ数試合、そういうMMAの技術向上ぶりをしっかり見せてくれていますから、現時点でのその完成度を見せてもらいたいですね。
ハントやクートゥアは頑張らないからずっと強い!?
ある意味、歴史を作りますよ。で、なおかつ日本でやっていたK−1のチャンピオンの存在感を表すことができるんだろうし。
――2001年K−1チャンピオンになった選手が、少しずつ成長を続けていって、13年後にUFCチャンピオンになるというのは、夢がありますよね。
いまのUFCっていうのは、とくに軽量級なんかは、ジョゼ・アルドもそうだし、チャド・メンデスにしても、TJ.ディラショーにしても、新しい世代が、新しい技術を身につけてレベルの高い試合をやって盛り上げてるじゃないですか。それもUFCのひとつの姿ですけど、ああやって、総合格闘技の創世記と言ってもいい、K−1やPRIDEに出ていた二人が、MMAの頂点であるUFCヘビー級王座を争うというのは、自分らからするとたまらないものがありますよね。
――それぞれ打撃だけ、寝技だけで頂点を極めた二人が、あえて苦手な分野を練習し続けて、ヘビー級の頂点に立とうとしてるわけですもんね。
ファブリシオにしてもハントにしても、ずっと順風満帆に勝ち続けてきたわけじゃなくて、何度も挫折を繰り返しながら、何年もかけてつかみ取ったチャンスですからね。あと、ハントに関しては、頑張ってここまで来たことは間違いないんですけど、途中、頑張らない時期を何度も挟んでるから、ここまで来たんじゃないかとも思うんですよ(笑)。
――ストイックになりすぎず、勝ったり負けたり、途中で休み休みやってきたから、40歳になっても第一線でいられるんじゃないか、と(笑)。
そんな気がするんですよね(笑)。実際、長く続けるには、練習をやらないときはまったくやらないっていうのも必要かもしれないですよ。もちろん、人によると思うんですけど。ランディ(・クートゥア)なんかも、きっとハントと同じタイプで、試合やらないときは、山にこもってハンティングやってたりするじゃないですか。
――シーズンオフを作って、趣味に没頭してますよね(笑)。
そうやって、自分をコントロールできる人っていうのは、精神的にも肉体的にも消耗させずに、長く続けられるんじゃないですかね。実際、ランディやハントが長く第一線にいるっていうのは、明確なひとつのデータですからね。
――ストイックに燃え尽きるようなやり方をしていたミルコ・クロコップとは、全然違う生き方ですよね。
どっちが正解かっていう問題ではないですけど、そういう頑張りすぎない時期が何度もあったハントが、今回タイトルマッチをやるというところにひとつの魅力というか、惹かれる部分ってありますね。
――今回、いざタイトルマッチのチャンスをつかんでも、ヘビー級リミットの120キロまで、3週間で17キロ減量しなきゃいけないっていうのも、ハントらしいですしね(笑)。
17キロって言ったら、幼稚園児ひとり分はありますからね。普通、ヘビー級は減量の必要がないのに、ハントは人間ひとり分減らさなきゃいけないんだから。それだけでファンタジーですよ(笑)。
――また、そんな事実上スーパーヘビー級の選手が、メキシコシティという標高が高くて空気が薄いところで、どれだけ闘えるかっていうのも未知数ですからね。
ホント、やってみなきゃわからないですよ。自分も昔、ちょっと標高が高いソルトレイクシティで試合をしたことがあって、そのときはアクビが止まらなかったですからね。
――そうなんですか。そうなると、高地トレーニングをしっかりやってきたファブリシオはともかく、普段は海抜0メートルのビーチで昼寝してるようなイメージのハントだと、どうなってしまうのか(笑)。
そこもファンタジーですよね(笑)。だから、いろんな要素も含めて、ハントがどんな状態で出てくるのか、どれだけMMAファイターとして成長してきたのか、そこが大きなポイントになるでしょうね。
(取材・文:堀江ガンツ/WOWOW UFC解説者)
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[主な対戦カード]
<ヘビー級>
ジュニオール・ドス・サントスvs.スティーペ・ミオシッチ
<ライト級>
ハファエル・ドス・アンジョスvs.ネート・ディアス
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