宇佐美貴史は“ドラえもんストライカー” G大阪・浮沈の鍵を握る絶対的エース

金子裕希

すでに“ニューヒーロー”とは呼べないキャリア

ナビスコカップで“ニューヒーロー賞”を獲得した宇佐美。チームの要として存在感を放っている 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

「多少なりとも長くやっているので、僕がもらっていいのかなっていうのが率直な気持ちでした」。今年のヤマザキナビスコカップで活躍した23歳以下の選手に贈られるニューヒーロー賞の受賞会見で、苦笑いを浮かべながらそう語ったガンバ大阪のFW宇佐美貴史。受賞資格を満たしてはいるものの、“ニューヒーロー”という言葉に違和感があるのは彼のキャリア、経験が若手のそれではないからにほかならない。

 現在22歳で、プロとしてのキャリアはすでに6年目を数える。高校2年時だった2009年、16歳でG大阪史上初となる飛び級でトップチーム昇格を果たすと、10年にはリーグ戦26試合に出場し7得点をマーク。この年のJリーグベストヤングプレーヤー賞(新人王)に輝いた。その後、バイエルン・ミュンヘン、ホッフェンハイムと2年間ドイツ1部でのプレーも経験。再びG大阪に戻ってきた昨季は途中加入ながら18試合で19得点をたたき出す活躍で1年でのJ1復帰、J2優勝に大きく貢献した。今季もチームの要として存在感を放っている。

遠藤「高いレベルですべてをこなせる」

 さて、宇佐美と言えば昨季のゴール量産と今季の活躍により、ストライカーとしてのイメージが定着しているだろう。ただ、当の本人は、「点に一番こだわっている自信はありますけど、ストライカー、9番っていうタイプではないと思います」と否定する。では、イメージするストライカーと言えば、誰か。

「佐藤寿人さん(サンフレッチェ広島)とかフィリッポ・インザーギ(現ミラン監督)とか。僕はボール回しに参加して鋭いパスを出せる自信はあるけど、ストライカーの動きや点の取り方はもっと増やしていかないといけない」と課題を挙げた。

 まだまだストライカーの域には達していないとでも言いたげな口ぶりだったが、MF遠藤保仁は「得点を奪うための能力をすべて兼ね備えていると思う。頭(ヘディングシュート)はそんなに得意じゃないと思いますけど、両足でゴールを決められるし、細かいステップだったり、シュートレンジの広さは日本のストライカーの中でもトップレベル。ゴールに向かっていく姿勢も非常に強いものがあると思うし、アシストもできる。高いレベルですべてをこなせるのが彼の特徴だと思います」と評価している。

宇佐美の調子とリンクした快進撃

リーグ戦再開後、宇佐美が調子を上げると、チームも快進撃を続け2位に浮上した 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 宇佐美の得点能力がいかにチームに恩恵をもたらしていたのか、前半戦はその存在感の大きさを思い知らされた。開幕を控えた2月の練習中に負った左腓骨筋腱脱臼で宇佐美が長期離脱したG大阪は、序盤から苦戦を強いられる。彼が戦線復帰するまでのリーグ戦8試合で奪った点数はわずかに7得点。決定力不足を打破すべく遠藤を前線で起用するなど試行錯誤を繰り返していたが、問題点を解消するどころかチャンスらしいチャンスも作れず、8試合中4試合は無得点と沈黙した。ガンバの金看板だった攻撃サッカーは影を潜め、これには長谷川健太監督も、「本来は(宇佐美が)いないのを感じさせないくらいにやりたかったけど、大きく数字に出ていますから。やっぱりゴールということに関して、長けた能力を持った選手だと思います」と、エース不在の穴の大きさを痛感していた。

 2勝3分け3敗と黒星が先行する中、宇佐美がチームに戻ってきたのは4月26日・第9節の川崎フロンターレ戦である。通常、負傷明けの選手に関しては練習試合を挟み、状態をチェックするのだが、宇佐美の場合は練習で紅白戦を行っただけ。それでも、「十分やれている感じがあった」(長谷川監督)という手応えを得てベンチ入りさせ、後半27分にはピッチに送り出している。ただ、思うように結果はついてこず、チームはここから3連敗を喫した。

「ワンチャンスで一発食らわせることを求められている中で、結果が出せないのは自分自身の実力不足。コンディションを上げる必要があるので、そこは自覚してやっていきたい」(宇佐美)となかなか波に乗れなかったが、5月6日・第12節徳島ヴォルティス戦で今季初の先発出場を果たすと、自ら22歳を祝うバースデー弾を決め、4試合ぶりの勝利に貢献。そこから中3日で行われた第13節名古屋グランパス戦ではゴールはなかったものの、ペナルティーエリア内でのヒールパスからMF阿部浩之の先制点を演出した。

 試合を重ねるごとに復調の兆しを見せ、溢れんばかりの才能が輝きを放ったのはリーグ戦再開後のことだ。7月19日・第15節ヴァンフォーレ甲府戦では「GKの位置とか分かっていたので浮かせば入ると思っていた。すべてイメージした通り」とDFに囲まれながら会心のループシュートで先制点を奪取。先制弾だけではなく、MF倉田秋のゴールをアシストする活躍で勝利に導いてみせた。その後もコンスタントにゴールを決め、調子を上げてきたエースとともにチームも10年ぶりの7連勝を達成。中断前の16位がうそのように破竹の勢いで白星を積み重ね、10月5日・第27節の鹿島アントラーズ戦で逆転勝ち(3−2)を収めたことで2位に浮上したのは記憶に新しいことだろう。

1/2ページ

著者プロフィール

1981年、福岡県生まれ。大阪の編集プロダクションで情報誌「関西ウォーカー」のスポーツページ制作を担当し、ライターとしてのキャリアをスタートさせる。その後、「ぴあ関西版」編集部でのスポーツ担当を経て、2010年よりフリーライターに。サッカーを中心にスポーツ全般を手掛けるほか、他ジャンルも取材するなど多岐にわたって活動する。大阪府サッカー協会が発刊する大阪サッカー通信『ACTION!』やガンバ大阪刊行物、WEB媒体や雑誌などで執筆中

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント