悔しいが「阪神らしい」と許すファン心理 悲願の日本一へ、来季に思いを馳せる

菅野徹

勝っていたのはセンターの守備だけ?

前後左右に好プレーを見せたセンター・大和。虎党の思いは課題の打撃を克服し、日本一のセンターになってもらうことだ 【写真は共同】

 なんなんですか、このジェットコースターのようなチームは(笑)、と笑ってしまうからいけないのか。ついついそんな極端なチームを「阪神らしいや、テヘ」と許してしまうからいけないのか。ファンだって本当は悔しいのにね。もちろん選手たちはもっと悔しいのだろうが。

 シーズン中、あんなに悔しい思いをした能見篤史に、日本シリーズで最高の勝利を飾ってほしかった。東京ドームでほえた藤浪晋太郎にシリーズでもほえまくってほしかった。粘りに粘った岩田稔を勝利投手にしてやりたかった。ズルズルと落ちかけたチームを救ってくれた岩崎優にもこの大舞台のマウンドに上げてやりたかったし、同じくチームを救い、支えてくれた梅野隆太郎にももっとマスクを被らせてやりたかったし、打席も経験させたかった。そう松田遼馬とのコンビで見せたはつらつとした姿。最高の送球で福岡ソフトバンクの松田宣浩の二盗を刺したあの場面。あそこからこのシリーズの流れが変わるはずだったんだがなぁ。うーん、とにかくできればあと2試合やりたかった。

 接戦も多く、力の差はないように見えるが、1勝4敗という勝敗の差どおりの実力差だったと思う。走者のスピード、走れる選手の数が違った。総合的な守備力、緩い守備が多すぎた。長打力、本塁打なしは寂しい。捕手の配球と投手のコントロール、まんまと読みを外された。勝っていたのはセンターの守備だけだったかもしれない。

 そう大和! この10月の大和の守備はすごかった。打撃がカラッキシだったのは肩が痛かったからなのかもしれないが、とにかく前に後ろに右に左に捕る捕る捕る! 大事な捕殺も決める決める。いったいこのポストシーズンで何本のヒットを奪い取ったことか。来季はとにかく打撃をなんとかして、日本一のセンターになってほしい。そのきっかけになるシリーズになるといいね。

日本一へ、来季に必要なもの

 話は戻って、阪神はもっとチーム内の競争を作り出さなくてはいけない。ソフトバンクの強さは、選手層の厚みにある。そりゃ確かに金もかけているけれど、日本シリーズで活躍した選手たちを見れば、全部が全部、大枚はたいて集めてきた選手ばかりではない。むしろ育ててきた選手たちの方が多い。競争の中でチームを強くしている証拠だろう。

 不動のオーダーと言えば聞こえはいいが、阪神はチーム内に競争状態を作れず、レギュラーとそれ以外の間に高い壁を作ってしまっている。なぜそうなるか。使い方が悪かったとしか言いようがないだろう。使える場面を見逃さずに使う。我慢して経験を積ませる。来季はシーズン序盤からそうあってほしい。

 できればもっと若い選手たちに日本シリーズを経験させたかったが、まあ終わってしまったのだから仕方ない。リーグ優勝もしていないのに日本一になろうだなんて、それは虫が良すぎるのだ。まずはちゃんとリーグ優勝ができるチームになろう。とりあえずスローカーブを打つ練習。まずはそこからだ!

鳥谷へ、寂しいけれど我慢する

 そして最後に。鳥谷敬、あと1年だけ、あと1年だけお願いします。ダメ? どうしても? そう……。まあね、やっと夢をつかもうとしているのだと言われればそれはもう仕方ないことだ。自分で勝ち取った権利だし、2度とないかもしれないチャンスだから。その時が来たら、あまりにも寂しいけれど我慢する。つらくなったらCSファイナル、「東京ドームで怒とうの4タテ」を思い出して、強く生きていくことにする。

 悔しいことも寂しいこともあるけれど、プロ野球はずっと続いていく。ドラフトで新たに楽しみな選手たちを迎えた来季の阪神タイガースに大いに期待する。

2/2ページ

著者プロフィール

フリーライター。野球、鉄道、広告コピーなどを中心に雑誌等で執筆中。旧筆名は「鳴尾浜トラオ」。阪神タイガース評論家を自称する。ブログ「自称阪神タイガース評論家」は2003年12月からほぼ毎朝更新中(ただし10〜12年は、阪神タイガース公式携帯サイトにて「トラオの視点」として連載)。著書に『虎暮らし』(2008年/扶桑社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント