型破りのキャリアを歩むロマーリオ “悪童”が政治家へと転身した理由

沢田啓明

大差で上院議員に当選

ブラジル上院議員に当選した元ブラジル代表FWのロマーリオ。政治家としても特筆すべきキャリアを歩みつつある 【写真:ロイター/アフロ】

 10月5日、ブラジルで統一選挙が行なわれ、リオ選挙区(1枠)から上院議員に立候補していた元ブラジル代表FWのロマーリオ下院議員が、有効投票の実に63パーセントあまりに相当する約468万票を集めて当選した。最大のライバルとみなされていた前リオ市長に300万票以上の大差をつけての圧勝だった。

 サッカー界では、元選手が政治家に転身して顕著な実績を残した例は少ない。かつて、キング・ペレや元パラグアイ代表GKホセ・ルイス・チラベルトが「大統領を目指す」と語ったことがあるが、実際にはかすりもしていない。日本では、1995年にかつての名センターFW(CF)釜本邦茂が衆議院議員に当選したが、2001年に政界を引退している。

 ブラジルでは、サッカー選手のほとんどが若くして学業を放棄しており、セカンドキャリアで成功する者は少ない。それどころか、アルコール中毒、犯罪、貧困などで悲惨な末路をたどるケースが後を絶たない。

 このような状況で、政治家として特筆すべきキャリアを歩みつつあり、「ひょっとしたら、将来、大統領にも」とささやかれる男がいる。親しみを込めて「バイシーニョ(ちびっ子)」と呼ばれるロマーリオ、48歳である。

選手として突出した成績を残すも、トラブルが絶えず

W杯優勝など輝かしいキャリアを持つが、公私両面でトラブルが絶えなかった 【写真:Action Images/アフロ】

 85年、リオデジャネイロの強豪バスコ・ダ・ガマからデビューし、3年後にオランダのPSVへ移籍し、欧州チャンピオンズリーグでは2シーズン連続の得点王を獲得。93−94シーズンにバルセロナで30得点を挙げ、当時監督だったヨハン・クライフが「ペナルティーエリア内では、世界サッカー史上最高の選手」と脱帽した。ブラジル代表でもエース・ストライカーとして君臨し、94年ワールドカップ(W杯)米国大会では優勝の立役者となった。その後、フラメンゴ、バスコ・ダ・ガマ、フルミネンセなどを渡り歩きながら得点を量産し、“通算1000点”を達成した。ただし、これはユース時代の数字も含む“自称”の数字で、本当は800点あまり。もっとも、これでもとてつもない数字だ。

 身長169センチでありながらCFとして突出した成績を残したが、一方で、トラブルメーカー、悪童として有名だった。「夜遊びが大好きで、練習が大嫌い」と公言。練習に遅刻したり、サボるのはいつものことで、やっと練習場へ姿を現わしたと思ったら「俺はみんなとは別メニュー」と監督、フィジカル・コーチに特別扱いを要求する。フラメンゴ時代、元ブラジル代表監督で厳格なバンデルレイ・ルシェンブルゴがこれを認めなかったところ、クラブ会長に「俺を取るか、奴を取るか」と迫って、監督を退団に追い込んだ。

 ピッチ内でも、相手選手を殴りつけたり、蹴飛ばしたり。試合中、ミスを犯したチームメイトを平手打ちしたことさえある。

 私生活も、自由奔放だ。2度離婚しているが、いずれも理由は浮気が夫人にばれたから。現在の3番目の夫人を含む4人の女性との間に、6人の子どもがいる。

 ブラジルでは、離婚すると子どもは母親が引き取り、父親が養育費を支払うのが一般的だ。最初の夫人との子どもへの養育費の支払いが遅れ、それを夫人に訴えられて警察へ連行され、留置所で一夜を過ごしたことがある。

 歯に衣着せぬ物言いや無神経な言動で、裁判沙汰となったことも一度や二度ではない。98年W杯フランス大会に招集されたが、体調不良を理由に当時のマリオ・ザガロ監督とジーコTD(テクニカル・ディレクター)に最終登録メンバーから外されて激怒。自身が経営していたナイトクラブのトイレのドアにザガロがズボンを脱いで便器に座り、ジーコがその横でトイレットペーパーを捧げ持っているイラストを描かせて、2人から名誉毀損(きそん)で訴えられるなど、公私両面でトラブルが絶えなかった。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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