世界体操に見た日本代表強化の成果 「スペシャリスト」育成で中国に迫る

松原孝臣

もやもやの残る団体2位

男子団体では僅差の2位となった日本男子。地の利が働いた感は否めないが、それでも中国と競り合った事実は本物だ 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 10月3日に始まった体操の世界選手権(中国・南寧)が、12日に閉幕した。

 日本男子は、内村航平(コナミ)が個人総合で世界選手権5連覇となる金メダルを獲得したのをはじめ、団体、内村の鉄棒、白井健三(岸根高)のゆかと、銀メダルが3つ。そして銅メダルは田中佑典(コナミ)の個人総合と加藤凌平(順天堂大)の平行棒の2つという成績を残した。

 その中でも、もっとも注目を集めたのは団体だった。

 日本は、2004年のアテネ五輪で金メダルを獲得したのを最後に、五輪、世界選手権を通じて6大会、2位以下に甘んじてきた。日本が優勝できない間、すべての大会を制してきたのは中国だった。

 中国を倒し、五輪、世界選手権を通じて10年ぶりの金メダルを獲得することこそ、今大会における最大の目標であった。大会前には「今回はかなり団体の金メダルに近いチームだと思います」と内村が自信を示したこともあり、期待も高まっていた。

 こうして迎えた団体決勝、日本は首位で最終種目の鉄棒を迎えたが、最後の最後で逆転を許し、0.1という僅差で再び2位となった。

 内容からすれば、その結果にもやもやしたものは残る。採点競技だけに、最終種目となった鉄棒をはじめ、中国に地元の利が働いた感は否めない。ただそれを差し引いても、これまで太刀打ちできなかった中国に対し、競り合ったという事実は残った。

「スペシャリスト」の活躍

ゆか、あん馬で9点台というEスコアを出した内村 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 では、接戦に持ち込むことができた理由は何か。1つには、ある種目を得意とする「スペシャリスト」の活躍がある。

 山室光史(コナミ)のけがなど、アクシデントがあったロンドン五輪団体とストレートに比較はできないが、合計で4点以上の大差をつけられたロンドンでは、日本が中国を上回ることができたのはつり輪のみだった。

 今回の世界選手権では、ゆか、あん馬と2種目で日本が勝る結果となった。ゆかは日本が46.732であるのに対し、中国は44.766。あん馬では日本が45.341、中国は43.724であった。

 上回ることができたのは、内村が両種目ともにただ1人、9点台という驚異的なEスコア(技の完成度や美しさに対する得点)を出したことなどもあるが、Dスコア(技の難度点)で日本が中国の上だったことも大きい。

 Dスコアで比較してみよう。ゆかでは日本が20.700、中国は19.900。あん馬では日本が19.000、中国は18.700。

 この両種目にこそ、スペシャリストがいた。ゆかは白井、あん馬は亀山耕平(徳洲会体操クラブ)である。白井はゆか、亀山はあん馬と各々が得意とする種目で、日本と中国の出場選手中、最も高いDスコアの演技をした。

 その効果もあって、この2つの種目合計で3.5点以上のリードを奪うことができた。

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著者プロフィール

1967年、東京都生まれ。フリーライター・編集者。大学を卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。その後「Number」の編集に10年携わり、再びフリーに。五輪競技を中心に執筆を続け、夏季は'04年アテネ、'08年北京、'12年ロンドン、冬季は'02年ソルトレイクシティ、'06年トリノ、'10年バンクーバー、'14年ソチと現地で取材にあたる。著書に『高齢者は社会資源だ』(ハリウコミュニケーションズ)『フライングガールズ−高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦−』(文藝春秋)など。7月に『メダリストに学ぶ 前人未到の結果を出す力』(クロスメディア・パブリッシング)を刊行。

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