世界体操に見た日本代表強化の成果 「スペシャリスト」育成で中国に迫る

松原孝臣

Dスコア重視の戦いをしてきた中国

ゆかの「スペシャリスト」としてチームに貢献した白井。技の難度も中国と渡り合えていた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 白井、亀山というスペシャリストが活躍した背景には、日本がスペシャリストを重視するようになり、育成と積極的な代表選出を志してきたことがある。

 もともと日本は、すべての種目を高いレベルで演じられるオールラウンダーを重んじる価値観があった。内村をはじめ、過去、数々のオールラウンダーが活躍してきた理由でもある。

 だが、団体総合では、代表選手6名(五輪は5名)全員がすべての種目に出る必要はなく、種目ごとに3名となっている。すると、それぞれの種目に、得意とする選手を割り当てていけばよい。オールラウンダーぞろいのチームよりも、特定の種目に強い選手がバランスよくいれば、全体で上回ることができる。

 その戦い方を推し進めてきたのが中国である。ハイレベルのDスコアを出せるスペシャリストをそろえ、各種目で高得点をマークし他を圧倒してきた。Dスコアは加算方式であり、技を行なえば得点となるのも大きい。

 日本は技の完成度や美しさを大切にしてきた。そのため、Eスコアでは優位に戦えるが、美しさや完成度を問うEスコアは、Dスコアと比べれば得点の出方が不明確になりやすい。しかもEスコアは減点方式である。

 結果、中国に遅れをとってきた日本もスペシャリストを重視する代表選考を行なうようになったのがこの数年の流れだ。中国と互角以上に渡り合ったことは、その成果の表れだと言える。同時にそれは、日本の方向性に間違いがなかったことを表している。

連盟会長はEスコア重視を示唆

国際体操連盟会長がEスコア重視を示唆。日本には有利に働く可能性も高い 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 ところで、大会最終日の12日、国際体操連盟のブルーノ・グランディ会長が記者会見の席で、次のように述べたと時事通信が伝えている。
「ただ演技するのではなく、良い演技でなければならない。規則を大幅に変えたくはないが、難度と実施のバランスを取りたい」

 難度の高い技をただ組み入れて高得点を稼ぐ演技への疑問と、今後修正を図っていくことの示唆である。

 Eスコアを重視する傾向になれば、日本にとっては有利となる。
 とはいえ、現段階では、日本の採るべき道ははっきりしている。この数年の方向性をさらに推し進めることだ。

 内村、加藤らオールラウンダーを軸としつつスペシャリストの強化に取り組み、Dスコアでも対抗できるようにしていくこと。その先に、悲願とする団体金メダル奪回が見えてくるし、種目別でのいっそうの好成績も期待できるようになるだろう。

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著者プロフィール

1967年、東京都生まれ。フリーライター・編集者。大学を卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。その後「Number」の編集に10年携わり、再びフリーに。五輪競技を中心に執筆を続け、夏季は'04年アテネ、'08年北京、'12年ロンドン、冬季は'02年ソルトレイクシティ、'06年トリノ、'10年バンクーバー、'14年ソチと現地で取材にあたる。著書に『高齢者は社会資源だ』(ハリウコミュニケーションズ)『フライングガールズ−高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦−』(文藝春秋)など。7月に『メダリストに学ぶ 前人未到の結果を出す力』(クロスメディア・パブリッシング)を刊行。

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