実録…ビアンキ事故発生から深夜まで 唯一病院に入った記者が明かす混乱の現場

田口浩次

待たされるメディア、困惑する病院

ビアンキが搬送された病院を訪れるマルシャのジョン・ブース代表(中央)ら。事故発生当日、深夜にかけて現場は混乱していた 【写真:ロイター/アフロ】

 話し合い後に、鈴鹿サーキット担当者がその内容をテレビクルーたちに伝えると言ったことで、まったく英語が通じない中、雨が降る病院の外で待ち続けていたテレビクルーたちも、少し落ち着いて待てる状況となった。そうした中、病院内からは迎えのクルマに乗ってドライバーのフェリペ・マッサが出て行ったり、マルシャのジョン・ブース代表が出て行ったりと、一部関係者の出入りはあったが、誰もが口をつぐんでいて、病院前にいてもビアンキの容体はまったく伝わってこなかった。

 鈴鹿サーキット担当者が病院に入ってから1時間ほど経ち、病院の外では各国のテレビクルーの声が大きくなっていた。「彼は病院と話し合って、どのようなアジェンダで今後発表するかを我々に伝えると言ってきた。もう1時間以上待っている。いったいどうなっている?」と。だが、病院の警備担当者を含め、英語も通じず、明らかにイラついていた。逆に病院側も、メディアとファンの数が増えているし、救急車が停車する救急口前にもメディアが立っているとあって、動線確保などをしたいと困っていた。そこで、筆者が警備員と一緒に病院内へ入り、鈴鹿サーキット担当者を見つけ次第、とにかく一度外に出て、進展がないならないことを伝えに出てほしいとメディアは要望していること、病院も困っていることを伝えに行くことになった。

鈴鹿担当者を探して病院内へ、そこで見た光景

 こうして入った病院内では、フェラーリの広報担当や、マルシャのスタッフ、フィジオのリカルド・チェカレッリなど約10名が、ただただ、病院の広い廊下などでうなだれた状態で待っていた。このころ、ツイッターなどでは、すでに緊急手術を終えてビアンキは自発呼吸をしているなどといった情報が流れていたようだが、病院の中で見かけたチームスタッフたちの様子をうかがう限り、とてもそうした雰囲気ではなかったと思う。

 すると、筆者を見つけたチェカレッリが話しかけてきた。「この辺で、サンドイッチのようなものを購入できる場所を知らないか? 近くにあれば買いに出たいんだ。みんな病院に直行していて食事をしていないから」と。チームスタッフは通常レース前の昼前後に食事を取るので、この時点で約半日ほど誰も食べていない状態だった。何ができるわけでなく、ただ待ち続けている状態だけに、スタッフたちにも疲労の色が感じられた。

 病院の中を歩き、鈴鹿サーキット担当者を見つけると、「とにかく何かしらのコメントをメディアにしてほしい。彼らも1時間以上、雨の中ほったらかしでイライラしている」と伝えた。担当者は「それを今、打ち合わせている最中です」と言ってきたが、「打ち合わせているなら、その打ち合わせていることを、一度説明してほしい。メディアの数も増えているので、一定時間ごとの報告は必要だと思う」と返した。その後、担当者は鈴鹿サーキットとも連絡を取り、23時11分、病院の外で鈴鹿サーキットからの電話を取り次ぐ形で囲み会見を行った。

 そこで、病院が今後の経過を発表するとしていたが、病院、FIA、マルシャ、鈴鹿サーキットで話し合った結果、今後はマルシャの広報担当を通じて、すべての情報をアップしていく。そして、ビアンキが救急車で病院に搬送された時間が17時36分であったことなどが明らかにされた。

現場ではまったく情報が出てこないが……

 この後、筆者は近くのコンビニエンスストアへ行き、病院内で待ち続けるチームスタッフたちに食べ物を購入し、再び警備員とともに病院内へと届けた。すでに24時近いこの時点でも、彼らは病院の廊下で、ただただ待ち続けている状態だった。それから、鈴鹿サーキットのプレスルームにいたFIA担当者が、病院へ移動し、病院前にて、ビアンキの状態が非常に重篤であることを伝えた。この囲み会見をもって、次に公式発表があるまでは、何も情報は出さないとコメントしたことで、病院前で待ち続けていたテレビクルーやファンたちも解散することになった。

 翌6日、月曜日の16時にマルシャは公式コメントを発表し、家族から病院の対応などに感謝している旨が伝えられた。そして冒頭にあった、サイヤン博士の来日などが各メディアから次々と伝えられていった。

 これが事故発生から、深夜過ぎまでに起きた病院前での出来事だ。正直、情報がまったく出ることがない状況の中、ツイッターなどでは、次々とビアンキの容体がアップされていくことに、現場にいたテレビクルーなども皆、不思議に思っていた。何しろ、ネット環境はなく、Wi−Fiルーターも誰も持っていない状態で、スマートフォンでチェックできるツイッターなどが病院前でも最大の情報源だったからだ。せいぜい、「誰が病院を後にした」といったことを、プレスルームに待つ他のメディアやスタッフに電話できる程度。関係者の口は重く、直接電話したところで容体を語る人がいたとも思えない。しかし、そうした状況だったからこそ、誰もが憶測に流されていたのかもしれない。

 現在、ビアンキの事故に関連した情報は非常に静観したものが増えた。当初は鈴鹿サーキットや病院を誹謗するような情報もあったが、それらも関係者たちによって否定されたことで、しっかりと事故原因を検証し、次を見据える動きが出てきた。もちろん、今はビアンキが再び、ファンの前に姿を見せることができるよう、彼の頑張りを信じていたい。

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