実録…ビアンキ事故発生から深夜まで 唯一病院に入った記者が明かす混乱の現場
アイルトン・セナの事故死から20年
日本GPの決勝前、笑顔を見せるビアンキ。深刻な状況に変わりはないが、今はただ、彼の頑張りを信じたい 【Getty Images】
しかし……。セナが亡くなって20年、多くの関係者がF1こそ世界で一番安全なモータースポーツだと感じている中、ジュール・ビアンキの事故が起きた。事故発生から48時間以上が過ぎ、現在、ビアンキは三重県立総合医療センターの集中治療室にて治療を受けている。そこへミハエル・シューマッハのスキー事故における治療とアドバイスを担当した神経外科医のジェラード・サイヤン博士が来日し、フェラーリはローマ大学の神経外科医、アレッサンドロ・フラッチ教授を呼び寄せた。
誰もがセナの悲劇を繰り返したくないと行動している。今後、ビアンキの治療等については、少しずつだが情報が開示されていくだろう。ここでは、筆者が目の当たりにした、事故発生から深夜にFIA(国際自動車連盟)が病院前で行った囲み会見までの状況をまとめたい。
ビアンキはマシンコントロールを失い、撤去作業中の重機に激突。直後に三重県立総合医療センターに搬送され、緊急手術を受けた 【アフロスポーツ】
レース終了後、チーム関係者は病院へ直行していたが、次のロシアGPは連戦のため、通常より過密スケジュールに追われ、メディアを含め、多くの関係者は、事故そのものについては理解していたものの、記者は執筆に追われ、カメラマンは写真のアップロードなどに追われていた。だが、レース終了後2時間ほどが過ぎ、なかなかオフィシャルリザルトが出ない中、大破したマシンの写真が出回ると、メディア関係者にも緊迫した雰囲気が広がっていた。それでも、国際映像にクラッシュシーンが映らなかったことで、どのようにクラッシュしたのかを知る人はほとんどなく、「スピンして後部からトラクターにぶつかったのでは?」「いや、前から潜り込むようにしてぶつかったらしい」「先に重傷のマーシャルがヘリコプターで運ばれたらしい」といった具合に、憶測によるものばかりが語られていた。
そして20時17分に突然、FIAのメディア担当者がプレスルーム内でマイクを片手に、配布する予定のリリースを読み上げた。プレスルーム内での読み上げ後、FIAメディア担当はテレビクルーが待つパドックへと移動して、同じようにリリースを読み上げた。このとき、イギリス・BBCなどは担当者が手にしていたリリースを撮影し、ツイッターにアップしたことで、ファンを含め、世界中の人がビアンキの深刻な状態を知ることとなった。
病院に駆けつけるメディアとファン
三重県立総合医療センターは443床を誇る三重県を代表する総合病院で、各都道府県に1つの基幹災害医療センターにも指定されており、ドクターヘリの離着陸場所が確保されている。一部、海外メディアでは田舎の病院に運ばれたという誤報があったが、災害医療などにも対応できる高度かつ大規模な総合病院である。
だが、そうした情報も当然現地では把握できておらず、暗い、夜間出入り口である救急受付の前に、各国のテレビクルーとファンが、ただただ、外で待っている状態となっていた。そこには鈴鹿サーキットの担当者も1人来ていた。徐々に増えてきたメディアとファンに対して、病院側からは「静かにしてほしい、喫煙場所を守ってほしい」等の要請があった。一方、テレビクルーたちからも「FIAは今後病院側から発表があると言っていた。いつ、どのような形で病院側は発表を考えているのかを教えてほしい」という要望が出ていて、22時を過ぎたあたりに、鈴鹿サーキットの担当者が病院担当者と話し合いを行うことが決まった。