顕著に出たW杯優勝メンバーと新戦力の差 北朝鮮に突きつけられたなでしこの課題

川端暁彦

埋められなかったメンバー間のギャップ

W杯優勝メンバーと新戦力との差を痛感することになったアジア大会。中でもキャプテン宮間の質の高さは際立った 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「新戦力発掘」を掲げて戦った、なでしこジャパンのアジア大会。ただ、結果として感じたのはW杯優勝メンバーたちの質の高さと、底上げ不足だった。弱い相手と戦っているときでさえ顕著だったそのギャップは、「レベルの高い相手」(佐々木監督)である北朝鮮を相手にしたとき、よりあらわになった。

 初代表で今大会へ参加し、6試合540分中448分に出場した左サイドバックの臼井理恵の言葉が印象的だ。

「テレビでいつもなでしこジャパンの試合を観ていて、『自分にもできるんじゃないか』みたいに思っていたんですけれど、入ってみると一個一個の差があった。(求められることに)応えられない悔しさがあった」

 百戦錬磨と言うべきW杯優勝メンバーとの間に意識の部分も含めてギャップがあったのは確かで、それを大会中に埋めきるのは正直に言って困難だった。「善くも悪くも、海外組が加わったら、もっとこんなことができるなあというイメージがある」という川澄の言葉は無情であるが、今大会のなでしこジャパンをよく象徴しているとも言える。既存の選手たちには新顔のプレーに物足りなさを感じていることを隠さない厳しさがあり、新しく入ってきた選手たちはそれに応えられないもどかしさを感じている。そんな断層のあるチームで勝てるほど、北朝鮮は甘いチームではなかった。

 決勝トーナメントに入って中国、韓国とアジアの強国を連破してきた北朝鮮が積み上げてきたモノと、物足りなさを感じる相手との試合を重ねてきたなでしこジャパンでは、大会中に上積みできたものという意味でも差はあったかもしれない。「10番(ラ・ウンシム)の個人技とか、ちょっと今までの相手とは全然違っていた」と臼井が言うように、もう少し強い相手と戦いを重ねて、経験を積ませてやりたかったというのが佐々木監督の本音ではなかったか。

 一方、主軸の海外組が抜ける中で奮起が期待された中堅選手では、攻撃陣が大会中の負傷もあってやや不完全燃焼に終わったものの、DF有吉佐織がコンスタントなプレーを見せてくれたのは一つの収穫だろう。それは敗北感を残してしまった大会で得た、一個の手応えだったと言える。

乗り越えなければいけない苦しみ

「いい勉強になりました」とアジア大会を締めくくった佐々木監督。最大目標であるW杯の連覇へ向けて、どう立て直していくのか手腕が問われる 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「(アジア大会の)連覇というのは過程の中での目標にはしていますけれど、まだまだ先にはもっと大事な目標もある」(佐々木監督)

 あくまでも、なでしこジャパンの最大目標は、来年にカナダで行われる女子ワールドカップ(W杯)、そこでの連覇達成だ。「結果も出れば良かったのでしょうけれど、結果が出なかった分、これを糧にしていきたいと思っている」と佐々木監督が言うように、アジア大会での敗戦をどう生かし、どう立て直すかという点こそが肝心だ。悪かった部分にしても、開催の迫っているW杯で使える選手を「見極める」という意味では収穫もあったと言える。

 佐々木監督は「ドイツとか米国とかスウェーデンにしても、北朝鮮のようなパワーとかスピードがありますから。北朝鮮に負けたということは、いずれにしてもそのレベルの中ではまだ勝ち得ないということの証明。これを踏まえて腰を据えてやらなければいけないと思います」と謙虚に語りつつ、「いい勉強になりました」と結んだ。

 なでしこジャパンによる世界制覇から3年余り。その経験者たちの存在感の大きさがあり、どうチームとして大きくなり、どう新しい選手を育てて組み込み、そしてまとまっていけるかどうか。ある意味で世界王者らしい苦しみ方と言えるが、これを乗り越えずして連覇はない。なでしこジャパンのアジア大会は、図らずもそれを実感する場になった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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