3戦で頂点を極めた天才サウスポー=ワシル・ロマチェンコの26年間

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プロ3戦目で世界王者という不滅の記録

世界3戦目で頂点に立った天才サウスポー、ワシル・ロマチェンコ 【(C)NAOKI FUKUDA】

 どのジャンルにおいても不滅の記録がある。ボクシングならば、1937年から49年にかけてヘビー級のジョー・ルイス(米)がマークした連続25度の世界王座防衛や、ウィルフレド・ベニテス(プエルトリコ)の17歳6カ月の最年少戴冠(76年)などが真っ先に思い浮かぶ。75年にセンサク・ムアンスリン(タイ)が樹立したプロ3戦目での世界王座獲得記録も、それらと肩を並べる驚異的なレコードといっていいだろう。

 この6月、そのセンサクの記録に並んだのが今回、紹介するワシル・ロマチェンコだ。オリンピック連覇を成し遂げるなど、アマチュア時代から際立った活躍をみせた天才サウスポーの26年を振り返ってみよう。

スポーツ選手になるのも当然の成り行き

 ロマチェンコは1988年2月17日、ウクライナ南部、黒海に面したビルホロドドニストロフスキーという街で生まれた。世界ヘビー級王者のマイク・タイソンが、初の来日を前にトレーニングに精を出しているころのことだ。アマチュアボクシングの元選手だった父親は教師をするかたわらボクシングのトレーナーも務めていた。のちに息子だけでなく12年ロンドン・オリンピックのヘビー級で金メダルを獲得するオレクサンデル・ウシクの指導にも携わっている。

 ロマチェンコ家は父親だけではなく母親が体操の指導者、さらに姉も体操選手というアスリート一家だった。そんな環境のなかで育ったロマチェンコが、スポーツ選手になったのは当然の成り行きといえよう。「何歳のときにボクシングを始めたのかは覚えていない。でも、ものすごく幼い時期だったことは間違いないよ。だって生まれてすぐに病院からジムに行ったんだから」とロマチェンコはジョークを飛ばす。

北京、ロンドン五輪連覇、WSB6連勝でプロ転向

 サウスポーの天才が頭角を現すのは早かった。2004年にはU−17(17歳以下の大会)を制し、06年にはジュニア世界選手権フライ級で優勝。07年からはシニアの国際大会にも出場し始め、その年にアメリカのシカゴで開催された世界選手権ではフェザー級で準優勝を収めている。決勝でアルベルト・セリモフに16対11のポイント負けを喫して銀メダルに甘んじたものだが、これがロマチェンコがアマチュア時代に喫した唯一の敗北といわれている(複数の敗北説もある)。ちなみにセリモフにはその後、2勝して借りは返している。

 08年、北京オリンピックに出場したロマチェンコは初戦でセリモフを下すなどしてフェザー級で金メダルを獲得。09年の世界選手権では準決勝でオスカル・バルデス(メキシコ)に12対1で完勝して優勝。11年の世界選手権でも6勝して覇権を握った。12年のロンドン五輪ではフェザー級が実施対象外だったためライト級でエントリー。3回戦ではフェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)に14対9のポイント勝ちを収め、その勢いのまま当然のように金メダルを獲得した。

 オリンピック直後、ロマチェンコは世界各地のプロモーターからプロ転向を打診されたが首をタテには振らなかった。アマチュア界に留まったロマチェンコはAIBA(アマチュア国際ボクシング協会)主催のワールドシリーズ・オブ・ボクシング(WSB)に出場し、ここでも6戦して全勝を収めた。プロと同じ8オンスのグローブを使用して3分×5ラウンド制で行われるこのWSBが、ロマチェンコにとっては貴重な経験となったことはいうまでもない。これを手土産にプロ転向を果たすことになる。

「プロデビュー戦で世界挑戦をさせてくれ」

 プロ入りに際してロマチェンコはオスカー・デラ・ホーヤ率いるゴールデンボーイ・プロモーションズをはじめトップランク社、メインイベンツ社など大手と交渉。そのうえで、アドバイザーを務めるエギス・クリマス氏と親交のあったトップランク社と手を組むことにした。「プロの戦い方に慣れていないことを心配する人もいるが、すぐに慣れるはず。心配はしていない。私はプロでも歴史をつくってみせる」とロマチェンコは自信を口にした。13年7月のことである。

 マニー・パッキャオやノニト・ドネアらスター選手を数多く抱えるトップランク社との契約に際し、ロマチェンコはひとつの条件を提示した。そのときのことをボブ・アラム・プロモーターが明かす。
「驚いたことに彼(ロマチェンコ)は『プロデビュー戦で世界挑戦させてくれ』と言ってきたんだ。しかし、それは無理なので、まずはデビュー戦で世界ランカーと戦い、その次に世界挑戦を組むと約束したんだ」

プロ初戦で世界ランカーKO、2戦目で世界挑戦

 プロデビュー戦は13年10月12日、ラスベガスで組まれた。WBO世界ウェルター級王者ティモシー・ブラッドリーvs.4階級制覇王者ファン・マヌエル・マルケスの大一番のアンダーカードだった。相手はWBO世界フェザー級7位にランクされていたホセ・ラミレス。試合はラミレスの持つWBOインターナショナル王座にロマチェンコが挑む形で行われた。デビュー戦がいきなり世界ランカー相手の10回戦とは、異例中の異例といえた。この試合でロマチェンコは初回にボディブローでダウンを奪い、4回にも打撃戦のなかで左を相手のボディに突き刺してフィニッシュした。期待に違わぬ力量を見せつけた天才サウスポーは、「次は世界挑戦」と先を見据えた。

 今年3月1日、ロマチェンコはオルランド・サリドに挑戦したが、試合前日の計量でサリドが体重オーバーのためWBOフェザー級王座を剥奪されるというハプニングに遭遇。試合でも前半にペースを抑えたことが裏目に出てポイントを失い、僅少差の判定負けを喫してしまった。それでも最終12回にはベテランをKO寸前にまで追い込んでみせた。

世界王者の次なる目標は統一戦

 そして6月21日、サリドが失って空位になった王座をゲイリー・ラッセルと争ったロマチェンコは、文句なしの12回判定勝ちを収めて戴冠を果たした。39年前にセンサク・ムアンスリンが樹立した最速記録に並ぶ3戦目での王座獲得だった。

 今、フェザー級にはWBAスーパー王者のドネアをはじめレギュラー王者のニコラス・ウォータース、IBF王者イブゲニー・グラドビッチ、そしてWBC王者ジョニー・ゴンサレスなど錚々たるメンバーがトップに名を連ねている。

 トップランク社も統一戦に大乗り気だ。ロマチェンコの目もすでに統一戦に向けられている。「防衛戦はランキングの上位者から順に声をかけていく。そして他の団体のチャンピオンと戦って王座を統一したい。とにかく強い相手と戦って自分の実力を証明していきたいんだ」と26歳の天才は意欲をみせる。“ハイテク”の異名を持つサウスポーから目が離せなくなってきた。

Written by ボクシングライター原功

◆◆◆WOWOW番組情報◆◆◆

★エキサイトマッチ〜世界プロボクシング
S・ライト級最強王者ガルシア、全勝記録更新なるか?
9月29日(月)夜9:00[WOWOWライブ]

<S・ライト級10回戦>
ダニー・ガルシア(アメリカ)/WBA・WBC世界S・ライト級チャンピオン
ロッド・サルカ(アメリカ)/前WBC中米カリブ・ライト級チャンピオン

<WBA世界ミドル級王座決定戦>
ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)/WBA世界ミドル級3位
ジャロッド・フレッチャー(オーストラリア)/WBA世界ミドル級2位

<IBF世界S・ライト級タイトルマッチ>
レイモント・ピーターソン(アメリカ)/IBF世界S・ライト級チャンピオン
エドガル・サンタナ(プエルトリコ)/IBF世界S・ライト級13位


★生中継!エキサイトマッチスペシャル ドネア&ゴロフキン ダブル世界タイトルマッチ
WBA・WBC世界ミドル級世界王座統一戦を生中継。王者・ゴロフキンの連続KO防衛記録の更新なるか注目!ドネア出場のWBA世界フェザー級王座統一戦も生中継する。
10月19日(日)午前11:00[WOWOWプライム]※生中継

<WBA・WBC世界ミドル級王座統一戦>
ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)/WBA世界ミドル級チャンピオン
マルコ・アントニオ・ルビオ(メキシコ)/WBC世界ミドル級暫定チャンピオン

<WBA世界フェザー級王座統一戦>
ノニト・ドネア(フィリピン)/5階級制覇チャンピオン
ニコラス・ウォータース(ジャマイカ)/WBA世界フェザー級チャンピオン
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